2018年1月20日土曜日

大ボリュームの怪異データベース。朝里樹『日本現代怪異事典』

今晩は、ミニキャッパー周平です。ここまで81回に渡って「気になるホラー小説」を紹介してきたこのブログ。先週の予告通り、今回は初めて、「小説以外のもの」を取り上げたいと思います。それはエッセイでもなければ漫画でもなければオカルト本でもなく……「辞書」です。

というわけで、今回の一冊は、朝里樹『日本現代怪異事典』。


「主に戦後の日本を舞台として語られた、現在の常識からは説明し難い超自然的な存在・現象・呪い・物体などにまつわる話を収集」するというコンセプトで纏められたこの一冊。3段組み、本文420ページ強、索引60ページ、収録項目1000以上と、とんでもないデータベースになっています。

出典は、松谷みよ子『現代民話考』や水木しげるの著作などのメジャーなものから、日本民話の会が収集した怪談集、読者の体験談を集めた「学校の怪談」系の本、都市伝説のまとめ本、2ちゃんねるのオカルト掲示板で語られた話、怪談サイトへの投稿、チェーンメール、などなど多種多様。江戸時代から語られる神隠しの森「八幡の藪知らず」から、Siriの不可解な応答によって広まった都市伝説「ゾルタクスゼイアン」まで縦横無尽。
「トイレの花子さん」「赤マント・青マント」「こっくりさん」辺りの90年代以前から語られていたオーソドックスな怪談と、「NNN臨時放送」「八尺様」「きさらぎ駅」「巨頭オ」などゼロ年代以降インターネットを通じて有名になった怪異が勢ぞろいするのは壮観ですし、「夜叉神ヶ淵の怪」「真夜中のゴン」「妖怪ヤカンおじさん」「真夜中のゴン」「リンゴゾンビ」「ブリッジマン」など聞いたこともなければググっても出てこない怪異も満載。マニア垂涎の一冊となっています。ちなみにリンゴゾンビは体育館に毎日リンゴを落としていき拾わせようとするゾンビ、ブリッジマンはブリッジしたまま追いかけてくる怪異だそうです。

メジャーな怪異であっても知らなかった情報がふんだんに含まれており、たとえば、「口裂け女」の項目では、口裂け女への対抗手段として、「『ポマード』と三回唱える」「『わたし、きれい?』という質問に『まあまあです』と答える」、などの有名なもののほかに、「べっこう飴を投げつける」「ボンタン飴をあげる」「りんごを投げつける」「小梅ちゃん(キャンディ)の大玉をあげる」「100点のテストを見せる」「掌に大と書いて見せる」「ハゲ、ハゲと繰り返し言う」「バンドエイドを鞄に貼っておく」「まっすぐ逃げず途中で曲がる」「建物の三階以上に逃げる」など、様々なバリエーションが出典付きで載っているのです。

索引の充実ぶりも見事で、五十音順索引のみならず、「類似怪異」「出没場所」「使用凶器」「都道府県別」などの索引から調べることができます。たとえば「出没場所」の「高速道路」の欄を見ると、高速道路には、(「人面犬」や「ターボババア」のように聞いたことのあるものの他にも)、「棺桶ババア」「蕎麦屋のおっちゃん」「猫人間」「バスケばあちゃん」「ヒッチハイクばばあ」などの様々な怪異が出没するのが一目で分かります。謎の老婆率。

本書はまず同人誌として通信販売されたものの注文が殺到、増刷を繰り返しても在庫が瞬殺されるという事態となり、最終的に商業出版された、という経緯をもっています。私も通信販売で買い逃したうちの一人。今回ようやく手に入れられて感無量です。


膨大なテキスト量の本ですし、一気に読み通すというよりは、気になった項目から拾い読んでいくのが良いかもしれません。怪談ファンはもちろんですが、ホラー小説を書こうとする人には、ぜひ一度手に取ってほしい、資料度の高い一冊です。