2017年11月11日土曜日

殺人者が徘徊する無人の温泉街、失われた記憶に蘇る惨劇――野城亮『ハラサキ』

今晩は、ミニキャッパー周平です。
突然ですが、皆さんは本の帯をつけたままにする派でしょうか、それとも一度は外してみる派でしょうか。私はとりあえず一度は帯を外して、隠れている部分を確かめる派です。
本日ご紹介する本は、帯付きで見ると「虚ろな瞳の女性がこちらをまっすぐ見据えている」というイラストですが、帯を外してみると、「女性が包丁をこちらに向けて構えている」のが明らかになるという仕掛けが隠されているのです。何気なく帯を外した時ビビりました。

というわけで、今日の一冊は、野城亮『ハラサキ』。


竹之山温泉街で育った女性・百崎日向は、幼少時の記憶を失っていた。里帰りのために竹之山に向かっていた日向は、駅で小学校の同級生だったという沙耶子に声をかけられ、母校を訪れることに。だが、彼女たちがたどり着いた竹之山の町は無人で、ハンマーをふるって襲いかかる謎の影が徘徊する、暗黒の異空間だった。日向は影から逃げ回り、異空間からの脱出を試みるが……。
その頃、一足先に、現実世界の竹之山に無事到着していた日向の婚約者・正樹は、連絡の途絶えた日向の捜索を始める。彼女の失踪の影には、町でささやかれる「ハラサキ」の噂――『悪いことをしたり夜に出歩いたりすると、ハラサキの世界に閉じ込められて腹を裂かれる』という都市伝説が見え隠れする。

「辿り着いた駅に誰もおらず、異変を感じて電車に戻ろうとすると電車が走り去ってしまう」という、インターネットフォークロアめいた序盤から一転、謎のルールに支配された空間から逃げ出そうとする、脱出ゲーム的な展開に向かう本作品。ヒロインが閉じ込められた「檻」であるところの竹之山の町の情景が美しく物悲しいのが、ホラーとしての緊張感やおぞましさと、絶妙なハーモニーを奏でています。雪の積もりゆく温泉街、廃旅館、無人の土産物屋、焼け落ちる家、雪原の先の小学校、そして夕焼け。過去に起きた惨劇の現場さえ、郷愁を誘い、目に焼き付くようです。


物語を牽引していくのは、逃走劇のスリルばかりでなく、散りばめられた謎の数々でもあります。異空間で発見された死体の身元、その死体が握りしめていたメモに書かれた<処刑場>という言葉の意味、記憶喪失である日向の小学校時代、日向の両親の死の理由、影の正体。そんな様々な謎が、徐々に解きほぐされていくうちに、読者は「日向は助かるのか」そして「助かるべき人間なのか」と心を翻弄されること請け合いでしょう。最初に述べた、女性が包丁を構えているカバーイラストも作中で重要なシーンを描いたものと思われますので、読後に改めて見てみると更にぞっとします。スピーディな物語かつ200ページと少しというコンパクトさであっという間に読んでしまえる小説ですが、最後の最後までどうぞくれぐれも油断なさらぬように。