2017年9月23日土曜日

ホラー作家&編集者コンビの幽霊取材――木犀あこ『奇奇奇譚編集部』

今晩は、ミニキャッパー周平です。ホラー作品の編集を担当したりブログで毎週ホラー小説を毎週紹介したりしている私ですが、あいにくというか幸運にもというか、現実で霊的体験をしたことはありません。広い世の中にはそういう体験をしながらホラー小説の編集をしている人もいるのでしょうか? というわけで、今回ご紹介しますのは、「ホラー小説家とその担当編集者」というコンビが主人公の、木犀あこ『奇奇奇譚編集部』です。



熊野惣介(ゆや・そうすけ)は19歳の時に「怪異小説大賞」を受賞してデビューしたホラー作家だが、とある事情から、デビュー作のあと7年も新刊を世に出せていない。彼は目下、怪奇小説雑誌『奇奇奇譚』に短編を発表しつつ、二冊目の出版に向けて執筆を続けている。担当編集者である、『奇奇奇譚』編集部の善知鳥悍(うとう・かん)とともに心霊スポットへ取材に出向き、ネタを仕入れる日々を送りながら。そう、熊野の書くホラー小説は、霊に纏わる能力をもった二人が「実際に遭遇した」本物の霊現象を元にしたものなのだ――

「霊を見ることはできるが、それに対抗する力を持たず、臆病である」ホラー作家・熊野と、「霊を見ることはできないが、それに対抗する力を持っていて、霊を恐れない」ホラー編集者・善知鳥の、凸凹なコンビネーションが秀逸です。怪奇現象に対して全力でビビり、近づこうとしない熊野と、新作を書かせるため、熊野を怪奇現象のど真ん中まで引きずって行こうとする善知鳥の姿を見ていると、つい熊野に応援の言葉をかけてあげたくなります。熊野が取材なしで作品を書くと、他誌のホラー賞に応募しても落選してしまうくらいの実力なのですが(その時の応募作品は「出先でたくさん甘海老を食べた男が、そのあともずっと甘海老の味に付きまとわれる」という異色の味覚ホラー「さもなくば胃は甘海老でいっぱいに」だとか)、熊野が実際に自分で見た霊を小説化すると、そこに驚きや他には無い凄味が宿り、恐怖をもたらす傑作になる。善知鳥はその才能に惚れ込んでいるからこそ、熊野に毒舌を向けつつ死地へ放り込むのです。そんな二人の関係性のおいしさは、ぜひ女性読者に強くお勧めしたいです。

さて、第一話となる「幽霊のコンテクスト」では、彼ら二人が、走行中の車のフロントガラスに取りつく怪異「びったんびったん」をはじめ様々な怪異に遭遇、最近発生している幾つかの怪異・怪談に奇妙な共通点を見出したことで、その根源を探り出そうとします(もちろん、それを元ネタに新作を書くために)。やがて明かされる原因というのが、実は彼らの身近にあったのですが――ネタバレになるので詳細は避けますが、ホラーのみならず、小説や漫画などを作ろうとしている作家・クリエイター、またはそのサポートをする人間であれば、五割増しで琴線に触れるであろう真相になっています。

巻末には、熊野と善知鳥の出会いを描いた過去エピソード「逆さ霊の怪」も収録しています。まだ生まれたばかりの物語ですが、究極のホラー小説を作り出すという目標に向けて突き進む二人の物語が、ぜひ今後も二冊三冊と読めるように、編集者の一人として期待しています。

(CM)第2回ジャンプホラー小説大賞から刊行された2冊、白骨死体となった美少女探偵が謎を解く『たとえあなたが骨になっても』、食材として育てられた少女との恋を描く『舌の上の君』をどうぞよろしくお願いします。そして第4回ジャンプホラー小説大賞へのご応募もお待ちしております。