2017年7月15日土曜日

優しき幽霊たちとの出会いが、人生を変える奇跡に……牧野修『サヨナラ、おかえり。』

こんばんは、ミニキャッパー周平です。暑い日が続き、一歩も外に出たくない日和が続いておりますので、室内でホラー作品を読んで納涼されてはいかがでしょうか。Jブックス編集部的には第2回ジャンプホラー小説大賞の『たとえあなたが骨になっても』『舌の上の君』がお勧めです。アキバブログにはそれぞれの著者インタビューが掲載されていますので、ぜひそちらもご覧ください。

さて、普段は「怖い」話を優先的に紹介していますが、今回は趣向を変え、これまであまり取り上げてこなかった、ジェントル・ゴースト・ストーリーものを。

と、言われても何のことやらという方のために説明しますと、ジェントル・ゴースト・ストーリーとは……祟る・恨む・呪い殺すなど人間に危害を加える幽霊ではなく、人間と交流したり、人間と心を通わせたりする優しい幽霊の登場する作品。読者を怖がらせるよりも、ドラマで泣かせたり、ユーモアで笑わせたりするハートフルな物語であることが多いです。

さて、そんな短編を6作品収録したのが、本日ご紹介する牧野修『サヨナラ、おかえり。』です。こちらは2015年に『冥福――日々のオバケ』のタイトルで刊行されたものの改題文庫化本です。



借金を苦にして自殺を試みた男の前に現れた、病死した父親の幽霊。豪雨の日に孫娘を失った老人のもとに現れた、見知らぬ少女の幽霊。両親との不和に悩まされる女性を出迎える、自殺した叔母の幽霊。この本の中で幽霊と遭遇する主人公たちは、現実の苦難に直面したり、過去のトラウマに引きずられたりして、生きづらさ、どうしようもない苦しみに囚われています。そんな人々が幽霊と巡り会って、言葉を交わすことで少しだけ前を向く、といったような、ほんのり心が温まる、あるいは涙を呼ぶエピソードが詰まっています(表紙に描かれている5人+1匹は、恐らくそれぞれのお話に登場する幽霊の姿)。

ユーモアの漂うセリフの応酬や世界設定(餡のような魂、葛のような三途の川など)に和まされたりしているうちにうっかり泣かされてしまう作品も多く、普段は主にグロテスクでおどろおどろしいホラーを書いている著者の意外な一面を見せられます。

私が好きな短編ベスト3を挙げると、喋る猫の霊の助けを借りて人探しをする謎解きもの「プリンとペットショップボーイ」(尊大でありつつも人間心理に敏い猫の霊がキュート)、大切な家族の死を受け入れられない者への救済を描く感動作「草葉の陰」(重いテーマを扱うやるせなく切ない物語でありながら温かい読後感)、そして一番好きなのが、オバケ視点で人間を怖がらせる術の習得を描く異色の物語「オバケ親方」です。

主人公である青年は、交通事故で死んでしまい幽霊となっているのですが、この世にただ一つ大きな未練を残しています。それは、生前、好意を寄せていた女性が、詐欺師じみた男に騙され大金を巻き上げられそうになっていること。

彼女を救うために「騙されている」ことを何とか伝えたい主人公ですが、幽霊が生きている人間に情報を伝達する方法は一つしかありません。それは「怖がらせる」こと。かくて主人公は、想い人を救うべく、オバケの親方の下で弟子として、人間をビビらせるための「オバケ修行」をすることになるのです。

「人間を最も怖がらせるには、視界の左側から、近距離に現れるべし」などの、親方からの的確なアドバイスによって、主人公がオバケとして成長していく姿には、オバケ側の舞台裏を覗いているような奇妙なおかしみがあります。もしあなたが将来、視界の左側、近距離から突然現れる幽霊に遭遇したら、それは人間を怖がらせるために修行を積んだオバケなのかもしれません。

牧野修先生には、以前、ホラー作家になるためのQ&A企画でインタビューもしておりますのでこちらもぜひご一読を。第4回ジャンプホラー小説大賞にもどしどしご応募ください!