2017年7月1日土曜日

生きたまま「死の世界」の扉を開けた者は何を視るのか? 『デスダイバー』


今晩は、ミニキャッパー周平です。第3回ジャンプホラー小説大賞は締め切られましたが、第4回の募集が始まっています。そこで、「ミニキャッパー周平の百物語」第4シーズンを華々しく開始すべく、最近のホラーを読もうと思っていたのですが……体調がぶっ壊れました! 熱と頭痛と咳と鼻水とリンパの腫れと関節痛で息も絶え絶えです。小説の内容が全然頭に入ってきません。そこで第4シーズンへのリニューアルを前に、非常時のためにストックしておいた一冊をご紹介します。

「帯」の強烈さに思わず手に取ってしまう本、というのに、時折遭遇しますが、これもそんな一冊。「恐れるな、死を体感し、死を遊べ。」と不穏な文言を6回も書いてある帯にギョッとして買ってしまった本です。その名も、両角長彦『デスダイバー』。



近未来。進化したバーチャルリアリティ(VR)技術を用いたエンターテイメントは世界を席巻していたが、その中でも最も多くの人を引き付けるコンテンツはバーチャル・デス、つまり疑似的な「死」の体験だった。絞首、感電死、薬物死、凍死、溺死……様々な形の「死」に向かう脳内状況を疑似的に体験できるのだ。たとえば「絞首」であれば、縄が皮膚に食い込んだり、頸椎が折れたりする感覚や痛みが、脳内でリアルに再現される。しかもVR体験なので、何の後遺症もなく生還できるのだ。

多種多様な「死」の体験をリリースしたことで、業界トップに上り詰めたFA(ファントム・アミューズ)社だったが、裏ではリアルな「死」のデータを収集するための極秘実験を繰り返していた。しかし、人類の死生観すら揺るがす重要な実験において、人智を超えた事故が発生し、スタッフ十五名が一瞬で死亡。FA社は壊滅的打撃を受けた。生と死の境界を突破しようとする実験によって、この世に呼び起こされてしまったものとは何か……?

物語は、捜査官である主人公が、事故の原因を探りつつ、実験で重要な役割を担っていた「デスダイバー」と呼ばれる女性の素性に迫っていくという捜査もの。ですが、日本神話やキリストの復活なども引用され、やがてオカルティックな方向に舵を取ります。近未来を舞台にした作品ではありますが、読後に残る感慨はむしろ、幼いころオカルト本を読んだときの「この世の理を超えたもの」に圧倒される感覚に近いです。

各章の冒頭に書かれているバラエティ豊かな「死」のディテール、「デスダイバー」が体験する生と死のはざまの世界など、読者はこの一冊の中で、幾度となく「死に近づいていく経験」をさせられ、ぞわぞわさせられること必至です。たとえば、大量殺戮や臨死体験をテーマにした本を読むよりも、ほの暗い「死」の濃度はずっと高く感じられます。うっかり体調の悪い時に読むと死の方角に引っ張られていきそうな力があるので、元気なときに読んでください。

来週には私も元気にホラー小説が読める体に戻りたいものです。最後になりましたが、第3回ジャンプホラー小説大賞に応募された方、ありがとうございました! 第4回ジャンプホラー小説大賞と、第2回ジャンプホラー小説大賞銀賞『たとえあなたが骨になっても』および編集長特別賞『舌の上の君』もよろしくお願いします。