2017年5月20日土曜日

虐げられたこどもたちを「楽園」へ誘う、黒マントの怪人の本性とは……牧野修『こどもつかい』

今晩は、ミニキャッパー周平です。6/19発売、第2回ジャンプホラー小説大賞受賞の2作品が、comicoにて独占先行配信されることとなりました! 『たとえあなたが骨になっても』は5/20より、『舌の上の君』は5/21より。どちらも序盤は無料で読めますので、ぜひご一読を。第3回ジャンプホラー小説大賞の〆切(6月末)も迫っておりますのでこちらもお忘れなく。

さて、日本を代表するホラー映画『呪怨』でお馴染みの清水崇監督による、待望の新作ホラー映画、『こどもつかい』が6/17(土)に公開されます。そこで今回は、公開に先立って発売された、牧野修による本作の小説版をご紹介しましょう。



虐待されたこどもがいずこかへ姿を消し、少し経つと家へ帰ってくるのだが、どこで覚えたのか分からない不気味な歌を歌うようになっている。その三日後、こどもを虐待していた大人が不審死を遂げる――連続して起こる怪事件の影には、こどもたちに甘言を囁き虜にする、黒マントの男の姿があった。新聞記者の江崎駿也は調査に乗り出すが、彼の恋人である保育士・原田尚美にも、魔の手が迫っていた。駿也は三日間の猶予の中で、怪異の正体を探り出し、尚美を守り切ることができるのか? やがて、彼らの必死の追跡劇により、六〇年前にサーカスの一座を襲った惨劇が炙り出されていく……。

帯に、「この世で一番怖いのは、こどもの怨み――」とうたわれている通り、ターゲットになるのは、虐待などでこどもの怨みを買った大人。「こどもつかい」が霊を差し向け、身勝手な大人たちを抹殺していくわけですが、「こどもつかい」自身、決してダークヒーローや善なる存在ではないことも徐々に暴かれていきます。それは、大人に傷つけられたこどもの心の隙をついて食い物にし、更なる悲劇を生み出す魔物。その「モンスター誕生」に至るストーリーに惹きつけられます。旧共産圏の貧しい家に生まれた少年が、虐待を受けたすえ娼館に売り飛ばされたのち、いかに魔に魅入られ、いかに技術を磨き、いかに殺戮を引き起こしていったか。猟奇犯罪者の実録ものを読んでいるような手触りに戦慄を覚えます。

対する主人公、駿也と尚美は、それぞれが幼少期に「こどもを虐げる大人」と関わりを持ち、後悔とトラウマを抱えています。「こどもつかい」の操るこどもの霊たちがいっせいに襲ってくるシーンはもちろん恐怖に満ちていますが、機嫌のよかった母親が些細なきっかけで豹変し、我が子へ理不尽な暴力を振るう、といった「大人」の身近な忌まわしさを描く場面も強烈です。本作品はホラーであると同時に、「傷ついたこどもたち」と向き合い、悲劇と暴力の連鎖を断ち切ることができるのか、というテーマに接近するドラマでもあります。

黒マント黒帽子黒ブーツ、という、文章の時点で鮮烈なビジュアルイメージが伝わってくる「こどもつかい」の姿を劇場で見れる日が待ち遠しいです。一方で、(この「小説版」のどこまでが映画通りで、どこからが著者のオリジナルなのかはまだ分からないのですが)物語の終盤で垣間見える一種の地獄の光景には、「きっとこれは映画で実現することは不可能であろう」と感じる劇的な演出もあり、小説でしか味わえない部分も多いのではと思います。というわけで、6/17の映画公開に向け、こちらで予習をしておくのはいかがでしょうか。

作者の牧野修先生には、以前、ホラー小説の書き方についてインタビューを行っております。こちらもぜひご覧ください!