2017年6月24日土曜日

人間の暗黒面に心奪われる二人は、今日も猟奇犯罪者に遭遇する……乙一『GOTH』

今晩は、ミニキャッパー周平です。第3回ジャンプホラー小説大賞の〆切まであと1週間です。志望者の方はラストスパート頑張ってください! そして第2回ジャンプホラー小説大賞受賞作のたとえあなたが骨になっても』『舌の上の君』、書籍&電子書籍版で大好評発売中ですのでお見逃しなく!

さて、担当編集者として『たとえあなたが骨になっても』のネット上での反響に目を通している私ですが(お褒めの感想を上げて頂いた方、ありがとうございます!)、複数の箇所で「初期の乙一作品のテイストを彷彿とさせる」とのコメントを頂きました。実は私が賞に応募された原稿(その時は『先輩が骨になった』という題名でした)を初めて読んだ時も、それに近い魅力を感じたのです。

――という訳で、本日ご紹介するのは、ホラーテイストを含むミステリであり、サイコサスペンスとしての側面ももつ大ヒット作、乙一『GOTH』です。



高校生の「僕」とクラスメートの少女・森野は、死や殺人といった人間の暗黒面に惹かれる者同士として密かな関係を結んでいる。ある日、森野が喫茶店で拾った手帳は、巷を賑わす猟奇殺人犯が己の凶行を記録したものだった。二人はただ死体を見たいという動機から、手帳に書かれた犯行現場に向かうが、それがきっかけで「僕」は犯人の正体を突き止めねばならなくなる――

と、これが第一話のあらすじで、二話目以降も、主人公の「僕」は正義感やまっとうな倫理観ではなく、状況のために(多くは、殺人や死、人間の暗黒面に出会おうとしたことが原因で)図らずも探偵役を務めて、犯人たちと対決していくことになります。各話に登場する、少女連続殺人鬼、生き埋め犯、手首切断魔など、人の道を踏み外した「犯人」たちのキャラ性、ロジカルであったりフェチ的であったり憑かれたかのようであったり、その怪物的な精神性には肝を冷やしますし、同時につい引き込まれてしまいます。しかしそれ以上に、主人公二人、孤高な森野と、一般人に擬態するように生活している「僕」のダークな関係に、ホラー的な魅力を感じてしまいます。

森野は、単に「猟奇的な出来事に関心を持っている」だけでなく、姉妹の死という過去が心に刺さった棘となっており、猟奇殺人犯に標的にされやすいという特殊体質も備えているため、存在そのものが死に引きずられているような危うさがあります。そして主人公の「僕」は、物語の中で一番の怪物。猟奇殺人犯相手でも物怖じすることなく渡り合い、彼らを警察に通報する訳でも、裁く訳でもなく、自らの「興味」を軸に行動していく。いわば、探偵よりも犯人に近い心性の持ち主なのです。今にも「死」の向こうに消えてしまいそうな森野。

今にも「殺人」の一線を踏み越えそうな「僕」。二人に境界線のこちら側に留まり続けてほしい、いびつな絆が決定的な破局を迎えずに済んで欲しい――そんな願望めいた思いとともに、6編の短編を一晩で読んでしまった十年以上前の記憶が、今回このレビューを書くために再読して、くっきりと甦りました。


キャラクターのことばかり述べてきましたが、ミステリとしてのクオリティも抜群です。各話に一度は読者の予想を裏切るどんでん返しがあり、更に最終話では、これまで周到に準備をした上での鮮やかな逆転が行われ、連作短編のお手本のような手際を見せてくれます。騙される快楽」を味わえる一冊としても、お勧めの作品です。

2017年6月17日土曜日

ついに発売! 第2回ジャンプホラー小説大賞受賞作『たとえあなたが骨になっても』『舌の上の君』

今晩は。ミニキャッパー周平です。……ついに! この欄でも毎回執拗に告知し続けたジャンプホラー小説大賞の2冊が間もなく刊行となります。公式発売日は6/19ですが、大きめの書店では土日のうちに並ぶのではないかと思いますので、ぜひチェックしてみてください。

というわけで今回は、第2回ジャンプホラー小説大賞の受賞作2冊――『たとえあなたが骨になっても』『舌の上の君』これらをご紹介する、ダイレクトマーケティング回となっております。


まずは、銀賞受賞作の菱川さかく『たとえあなたが骨になっても』。
高校生・朝戸雄一の敬愛する先輩・後光院凛々花は、周囲の全てを虜にする美貌と、警察から助力を請われるほどの推理力を備えた「名探偵」だった。雄一は、彼女の助手として奔走する日々を送っていたが、ある日、凛々花が何者かに殺害されてしまう。
しかし、殺されてからも凛々花の持つ推理力は変わらなかった。雄一は骨だけになった彼女とともに、町を襲う事件の犯人を追跡するが……?

オーソドックスな「学生探偵もの」――おかしな部活に探偵役と助手と情報収集担当が集い、学校の謎や警察の追う事件を解決する――という正統派キャラミステリ的な関係が崩壊してしまい、「終わってしまった」後から始まる物語。死してもなお謎への執着を失わない先輩と、先輩の頭蓋骨を大事に抱えて事件現場に向かう雄一。常軌を逸した関係となった二人がたどり着く真実は、呪わしく痛ましいものだった……異形にして闇色の、青春ホラーミステリです。

美しき凛々花先輩が神々しいまでの存在感を放つ、清原紘先生のカバーイラストが目印です!

続いては、編集長特別賞受賞作、ヰ坂暁『舌の上の君』。

異世界に迷いこんでしまった料理人・厨圭(クリヤ ケイ)は現地人の少女・アイサに救われる。クリヤは異世界の宮廷で料理人として身を立てることに成功するが、やがてアイサについて恐るべき真相を知ることになる。
彼女は「サカラ」という究極の美味を宿した人間であり、いずれその身を調理され、食される運命にあったのだ。アイサは他でもないクリヤに調理されることを望むが……。

昨今話題の「異世界」ものですが、クリヤは羨ましいシチュエーションを享受するどころか、倫理観の異なる世界で、壮絶な選択を迫られることとなります。献身的で愛らしいアイサを守りたい・救いたいという、現代日本人として自然な気持ちを抱えながら、彼女を調理し「食べる」ことが当然という価値観に少しずつ心を揺さぶられていくクリヤの姿から、目が離せなくなるでしょう。禁忌を踏み越えるダークなホラーであると同時に、少女との胸を引き裂くような悲恋をも描き切る衝撃作です。

異国情緒たっぷりの世界とキャラをビビッドに描く、しおん先生のイラストも多数収録しています!

というわけで、第2回ジャンプホラー小説大賞受賞作の2冊を、宜しくお願いいたします! 第3回の〆切ももうすぐ(6/30)なのでお忘れなく!




2017年6月10日土曜日

四世紀に渡って「魔女」に呪われた町の地獄――世界的ヒット作、トマス・オルディ・フーヴェルト『魔女の棲む町』

今晩は、ミニキャッパー周平です。第2回ジャンプホラー小説大賞受賞作『たとえあなたが骨になっても』『舌の上の君』発売(6/19)まであと9日。第3回の締め切り(6/30)まであと20日。どちらもお見逃しなく!!

6/19発売の2冊は現時点で反響も大きく、改めてホラーというジャンルの強さを感じる今日この頃ですが、「リング」や「呪怨」の海外でのヒットに代表されるように、「怖い話」の力は国境を超え、世界規模にまで広がっていきます。

今回ご紹介する本も、そんなパワーをもった一冊。2013年にオランダでベストセラーになったのち、米英にも翻訳され、スティーブン・キングも絶賛。現在14か国で翻訳権が取得されていて、ワーナーブラザーズがTVドラマ化権を獲得したという、いま世界的にホットなホラー小説。トマス・オルディ・フーヴェルト『魔女の棲む町』です。



ブラックスプリングの町は、4世紀に渡って、たった一人の女に呪われ続けている――。17世紀にこの地で「魔女」として処刑されたキャサリンは、死後も肉体を持った幽霊としてブラックスプリングの町に留まり続けた。彼女は町の中であれば屋内屋外を問わず出現し、時には民家の居間や寝室にまで前触れなく現れ、不用意に近づく者に速やかで残酷な死の呪いを与える。

彼女に怯えながら生活する人々も、町を捨てて逃げ去ることはできない。一度ブラックスプリングに住み始めた者は、そこから逃げ出せばやはり死の呪いが降りかかるため、永遠に町の住人であることを余儀なくされる。にもかかわらず住人たちは、更なる致命的な災いを恐れて、町ぐるみで「魔女」の存在を隠蔽し続けてきた。アプリを用いた現代的な監視網でキャサリンの出現場所を共有し、迅速によそものたちの目から隠蔽する組織も結成されている。

町の住人のひとりスティーヴは、愛する家族とともに、魔女の出現に目をつむりながら歪んだ平穏を生きていた。彼は、自身の息子・タイラーが友人たちと組んで、町の秘密を世界に公開しようと計画していることに気づいていなかった……。

500ページ超に渡る長編ですが、あたかも海外の連続ドラマをぶっ通しで視聴するかのように読みふけってしまいました。もう情けも容赦なく、悲劇的で、悪夢的で、何より「怖い」作品です。魔女認定と拷問の果て、自分の子供のうち一人を生きながらえさせるために、もう一人の我が子を殺させられた、というキャサリンの悲劇が早い段階で提示されるので、「これはきっと心理的にかなりきついホラーになるだろうな」と覚悟を決めて読みましたが、覚悟していた以上の壮絶な展開が待っていました。

まず前提として、村全体が「魔女の呪い」という秘密を共有していて、住人全てが共犯者という異常な緊張感が物語を包んでいるのですが、それ以外にも、登場人物の大半が大なり小なり「他人に知られてはならない危険な秘密」を背負ってしまい、緊張の糸が四方八方に張り巡らされていきます。そんな精神的飽和状態の中で、人々の不安と猜疑心が募っていき、やがてダムが決壊するかのように、想定された「最悪のシナリオ」を超える悪夢が現実に顕現するのです。一度臨界点を超えて暴発してからの惨劇の連鎖、スティーヴたち一家や町全体を襲う事態は、映像的にも精神的にも筆舌に尽くしがたいものです。

350年に渡る「呪い」との戦いで町が積み上げてきた知恵と、Youtubeやiphoneや監視用のアプリなど現代的なテクノロジーの加護によって、辛うじて魔女の脅威を把握し得ていたブラックスプリング。その(偽の)平穏にページ数を費やしているからこそ、物語の後半が読者に与えるダメージは大きいでしょう。町が、相次ぐ凶兆と不信によって全ての防御を解除され、魔女狩り時代のような、あるいはそれ以上の狂騒に呑み込まれていく様は、慣れ親しんだ町が大規模災害に襲われる様を見せつけられるような惨たらしさ、悲しさがあります。

よく、ホラー小説にまつわる議論として、「超常的な力」の方が怖いのか、「人間の心の闇」の方が怖いのかという議論がありますが、この小説では、どちらも揃って怖いです。目と口を縫い合わされた「魔女」の振るうこの世ならぬ力、それに怯えるあまり理性を手放す人々の行為、いずれもが恐怖と悲劇の源泉となり、アクセルとアクセルでブレーキのない車のようなノンストップホラー。これを一気読みしてしまった今日、物凄い悪夢を見てしまいそうで心配です。

2017年6月3日土曜日

『吸血鬼ドラキュラ』の作者が創造した、エジプトの女王の呪いとは……『七つ星の宝石』


 こんばんは、ミニキャッパー周平です。第2回ジャンプホラー小説大賞受賞作『たとえあなたが骨になっても』『舌の上の君』、ともに無事校了されました! あとは見本の到着と6/19発売を待つばかりです。第3回の〆切(6/30)もお忘れなく。

さて、ここしばらく、日本人作家の近作ばかりを紹介してきましたが、久しぶりに、海外の古典に目を向けたいと思います。今回取り上げますのは、世界で一番有名なホラー小説といっても過言ではない、『吸血鬼ドラキュラ』……ではなく、『吸血鬼ドラキュラ』の作者、ブラム・ストーカーによる、エジプトものホラー『七つ星の宝石』です。


「『吸血鬼ドラキュラ』は知ってるけど、そんな小説、聞いたことがない……」と思われるものも無理はありません。本作は1903に出版された作品でありながら、日本に訳されたのは2015。『吸血鬼ドラキュラ』が大昔から多数の出版社によって翻訳されているのとは対照的に、『七つ星の宝石』は100年以上に渡って、「日本語では読めない本」だったのです。それでも、本国イギリスでは、『吸血鬼ドラキュラ』同様、読み継がれてきた作品だとか。

弁護士の青年・マルコムは、舞踏会で知り合って親密になった女性・マーガレットから真夜中に呼び出しを受ける。マーガレットの父親・トレローニー氏が何者かに襲撃を受け、昏睡状態に陥ったというのだ。警察も到着し捜査を開始するが、犯人の素性も目的もわからない。ただ、古代エジプトに関心があったトレローニー氏は、部屋中をエジプトの遺物、宝物やミイラで満たしており、部屋には不気味な空気が漂っていた。
トレローニー氏の書き置きに従って、部屋で寝ずの番をするマルコムたちだったが、その監視をかいくぐって第二の事件が起こる。やがて彼らは、トレローニー氏が収集していた品々が、四千年前に、古代エジプトにおいて「復活」の奇跡を行ったという聡明にして美貌の女王・テラのものであったことを知る……。

『吸血鬼ドラキュラ』で、吸血鬼伝承から「ドラキュラ伯爵」を生み出した作者ブラム・ストーカーは今回、エジプトの伝承から「テラ女王」というキャラクターを生み出しました。もちろん実在の人物ではありませんし、ドラキュラ伯爵と違って作品の中盤で大立ち回りをすることもないのですが、ヒエログリフに僅かに記された彼女の人生は想像を掻き立てますし、主人公たちを翻弄する四千年がかりの「遺志」に気の遠くなるような執念を感じます。

登場人物が、ヒエログリフを仔細に解説したり、古代の天文学や信仰について熱狂的に語るシーンは非常にマニアックで、調べた内容を語るのが楽しくなってしまっている作者の顔が透けて見えるような気も(若干)します。手記の形で語られる王墓の発掘と、発掘者を次々に襲った「呪い」の姿は、秘境冒険小説と怪奇小説の混交した、この時代の小説でしか味わえない楽しさがあります。

「あれ? 『エジプトで王墓を掘り返したら発掘隊の関係者が次々と急死した』っていう与太話、ノンフィクションで聞いたことがあるような……」と思った方もおいでかもしれませんが、オカルト界隈で語られる「ツタンカーメンの呪い」(発掘に携わった関係者たちが急死したといわれる噂)の舞台は1920年代。つまり1903年発表の『七つ星の宝石』の方が先んじているのです。あるいは、「ツタンカーメンの呪い」が一時期、人々に信じられたのも、彼らの頭に『七つ星の宝石』とテラ女王のことがあったからかもしれません。

なお、『七つ星の宝石』は、1912年に改訂版が出されたとき、最終章が書き直されていて、本書には、初版の結末と1912年版の結末、両方が収められています。同じ人間が書いたとは思えない(実際、1912年版は本当にブラム・ストーカーが改稿したものか疑わしいとか)、何から何まで180度違うラストなので、読み比べてお好きな方をお選びください。

2017年5月27日土曜日

あなたの大切な人が生き返る——どろどろぐちゃぐちゃの生物として。堀井拓馬『なまづま』

こんばんは、ミニキャッパー周平です。いよいよ『たとえあなたが骨になっても』『舌の上の君』の書影が公開されました! 清原紘先生、しおん先生の手による美麗なカバーイラストをぜひお確かめください。

第2回ジャンプホラー小説大賞受賞作のこの2冊は、6/19発売。6/30〆切の第3回ジャンプホラー小説大賞への応募も宜しくお願いします!

さて、ホラー小説紹介ブログとして、これまで様々、「気持ち悪い」生命体をご紹介してきたましたが、今回ご紹介する一冊、堀井拓馬『なまづま』に登場する生命体「ヌメリヒトモドキ」は、もう名前の時点で粘度が伝わってくる、ぶっちぎりで気色悪い生き物です。



本作において、突然発生して世界に蔓延している人間サイズの「ヌメリヒトモドキ」ですが、
●嘔吐感を催す、強い腐敗臭を放つ。
●粘膜に覆われており、粘液を跳ね散らかして這い進む。
●ゴミを貪る習性があり不潔である。
●絶対に死なないうえ、排除も困難。
という四拍子そろったキモさで、こいつらが町中を我が物顔でぬめぬめ這いずってる時点でぞっとします。

ただ、「人間の髪や爪を食べると、徐々にその人間に心と姿を近づけていく」という体質も持っていたため、これを利用しようとする人間も現れました。倒錯した欲求を満たすため、ヌメリヒトモドキを自分そっくりに育ててそれを虐待したり。死者の姿を追い求めて、ヌメリヒトモドキを死者に似せて育てようとしたり。

そう、この生物の研究者であった主人公も、病死した妻の遺した髪を餌として、ヌメリヒトモドキを成長させ、「妻」を再現しようとするのですが——もちろん、死んだ人間を蘇らせようとしたら大変なことになるのはイザナギイザナミの時代からの世の常。

ヌメリヒトモドキの「妻」と触れ合うことは、すなわち、どろどろぐちゃぐちゃの怪生物と触れ合うこと。髪を撫でた指の隙間からは粘液がこぼれ、口づけをすれば腐臭に嘔吐してしまい、接触のあと必死になって自分の体を洗ってもヌメリ臭は取れず、といった具合に細部の描写は激烈です。そんな状況でも取りつかれたようにヌメリヒトモドキを飼育して「妻」を取り戻そうとする主人公の姿にまずは恐怖を覚えますが、やがてそれは悲しみに取って代わります。

主人公はまっしぐらに破滅へ向かっていきますが、彼の思いもよらぬ「心変わり」によって、物語は読者が予想した以上に悲劇的な結末へと向かうのです。飼育によって形を変え、心を変えていくヌメリヒトモドキは、ある意味では、人間の欲望や身勝手さを映し出す鏡でもあります。互いの欠損を埋めあおうとする人間同士のディスコミュニケーション、相互の致命的な不理解が物語の底に流れていて、登場人物のほぼ全員が、それぞれの孤独に苛まれていたのだと、読み手は痛感させられるでしょう。読後に到来する感情は切々たるものです。どろどろぐちゃぐちゃの塊をかき分けて恐る恐る進んでいくと、思いもよらない、深い哀切に飲み込まれる——この物語そのものが、そんな一匹の怪物めいた存在なのです。


2017年5月20日土曜日

虐げられたこどもたちを「楽園」へ誘う、黒マントの怪人の本性とは……牧野修『こどもつかい』

今晩は、ミニキャッパー周平です。6/19発売、第2回ジャンプホラー小説大賞受賞の2作品が、comicoにて独占先行配信されることとなりました! 『たとえあなたが骨になっても』は5/20より、『舌の上の君』は5/21より。どちらも序盤は無料で読めますので、ぜひご一読を。第3回ジャンプホラー小説大賞の〆切(6月末)も迫っておりますのでこちらもお忘れなく。

さて、日本を代表するホラー映画『呪怨』でお馴染みの清水崇監督による、待望の新作ホラー映画、『こどもつかい』が6/17(土)に公開されます。そこで今回は、公開に先立って発売された、牧野修による本作の小説版をご紹介しましょう。



虐待されたこどもがいずこかへ姿を消し、少し経つと家へ帰ってくるのだが、どこで覚えたのか分からない不気味な歌を歌うようになっている。その三日後、こどもを虐待していた大人が不審死を遂げる――連続して起こる怪事件の影には、こどもたちに甘言を囁き虜にする、黒マントの男の姿があった。新聞記者の江崎駿也は調査に乗り出すが、彼の恋人である保育士・原田尚美にも、魔の手が迫っていた。駿也は三日間の猶予の中で、怪異の正体を探り出し、尚美を守り切ることができるのか? やがて、彼らの必死の追跡劇により、六〇年前にサーカスの一座を襲った惨劇が炙り出されていく……。

帯に、「この世で一番怖いのは、こどもの怨み――」とうたわれている通り、ターゲットになるのは、虐待などでこどもの怨みを買った大人。「こどもつかい」が霊を差し向け、身勝手な大人たちを抹殺していくわけですが、「こどもつかい」自身、決してダークヒーローや善なる存在ではないことも徐々に暴かれていきます。それは、大人に傷つけられたこどもの心の隙をついて食い物にし、更なる悲劇を生み出す魔物。その「モンスター誕生」に至るストーリーに惹きつけられます。旧共産圏の貧しい家に生まれた少年が、虐待を受けたすえ娼館に売り飛ばされたのち、いかに魔に魅入られ、いかに技術を磨き、いかに殺戮を引き起こしていったか。猟奇犯罪者の実録ものを読んでいるような手触りに戦慄を覚えます。

対する主人公、駿也と尚美は、それぞれが幼少期に「こどもを虐げる大人」と関わりを持ち、後悔とトラウマを抱えています。「こどもつかい」の操るこどもの霊たちがいっせいに襲ってくるシーンはもちろん恐怖に満ちていますが、機嫌のよかった母親が些細なきっかけで豹変し、我が子へ理不尽な暴力を振るう、といった「大人」の身近な忌まわしさを描く場面も強烈です。本作品はホラーであると同時に、「傷ついたこどもたち」と向き合い、悲劇と暴力の連鎖を断ち切ることができるのか、というテーマに接近するドラマでもあります。

黒マント黒帽子黒ブーツ、という、文章の時点で鮮烈なビジュアルイメージが伝わってくる「こどもつかい」の姿を劇場で見れる日が待ち遠しいです。一方で、(この「小説版」のどこまでが映画通りで、どこからが著者のオリジナルなのかはまだ分からないのですが)物語の終盤で垣間見える一種の地獄の光景には、「きっとこれは映画で実現することは不可能であろう」と感じる劇的な演出もあり、小説でしか味わえない部分も多いのではと思います。というわけで、6/17の映画公開に向け、こちらで予習をしておくのはいかがでしょうか。

作者の牧野修先生には、以前、ホラー小説の書き方についてインタビューを行っております。こちらもぜひご覧ください!

2017年5月13日土曜日

窓の向こうは見知らぬ土地、私を崇める人たち……深い夜の幻想譚『やみ窓』

今晩は、ミニキャッパー周平です。GW中はひたすら書店を巡ってホラーを漁りましたので、しばらくはこのブログも安泰です。おかげでまた夢見が悪くなりましたが、早起きできて結果オーライです。ほんまかいな。

第2回ジャンプホラー小説大賞受賞作の2冊『たとえあなたが骨になっても』『舌の上の君』(ともに6/19発売予定)ですが、書影の公開やその他の素敵なニュースも近日中に。第3回ジャンプホラー小説大賞の〆切まではあと一か月半。今からでも遅くはないので、皆さまぜひ渾身のホラーをご執筆&ご応募ください。

さて、「窓の向こう」「扉の向こう」が「ここではないどこか」に繋がっている、という秘密めいた怪奇はホラーや幻想小説の花形ですが(H.G.ウェルズ「塀についた扉」は、幻想短編のマイベスト。超お勧め)、今宵ご紹介するのもそんな一冊。篠たまき『やみ窓』です。



夫を不慮の事故で喪い、一人暮らしをしていたフリーター・黒崎柚子は、自身の住むアパートの窓が、夜、いずことも知れぬ時代・土地の村と繋がることを知る。やがて柚子は窓の向こうに訪れる村人たちと「取引」を始めた。村人たちから地産の品を受け取る代わりに、柚子は、村人たちが貴重な壺と見なすもの(正体はただのペットボトル)を与える。村人たちから捧げられた、熊の肝や黒い米、精巧な織物などの珍しい品々は、インターネットで高く売れるのだ。柚子は、昼には派遣仕事に通う一方で、夜は一晩中、窓の前で訪問者を待ち続けて生計を立てることになった。しかし、窓に訪れるのは、必ずしも安全な取引相手ばかりでなく、柚子は時に命の危機にさえ晒される……。

この物語の面白さは、何の能力も持たない普通の人間であるはずの主人公が、窓の向こう側の村人にとって常識を超えた「怪異」になってしまう、という点です。小金を稼ぐために取引をしていただけだったはずの柚子は、いつの間にか村人たちから信仰の対象とされ、豊作や病気の治癒など叶えられる筈もない「神頼み」をされたり、供物を捧げられたり、望まぬうちに村人たちの人生を翻弄してしまったり、と「恐るべき神」そのものになってしまうのです。

窓のこちら側では、自身の薄暗い過去に追われる、傷ついた一人の人間。窓の向こう側から見れば、時に恵みを、時に災厄をもたらす、人智を超えた獰猛な神。そんな騙し絵染みた構図が鮮やかですし、どんなに窓越しのやりとりを繰り返しても、窓の向こう側で起きた出来事には関われず、その行く末は想像することしかできない、という状況が、深い余韻を残すラストに結びついています。

夜、一人きりで部屋の中にいると、ふと窓の向こうが異界に繋がっていないか、カーテンを開いて確かめてみたくなる――そんな、「あちら」と「こちら」の距離を縮める一冊です。

2017年5月6日土曜日

小学生の日常を「魔法少女」が闇色に塗り替えていく……『魔女の子供はやってこない』

今晩は、ミニキャッパー周平です。GWも終わりかけですが、皆さんは良い休日を過ごせましたか? あるいは、第3回ジャンプホラー小説大賞の原稿は進みましたか? 第2回ジャンプホラー小説大賞受賞作(6/19発売)の『たとえあなたが骨になっても』『舌の上の君』は、校了作業も佳境となりました。それぞれのカバーイラストも素晴らしくビビッド、ジャケ買い必至なので、皆様にお見せできる日が楽しみです。

さて、ジャケ買いといえば、私がしばらく前、書店で表紙イラスト(『となりの801ちゃん』の小島アジコ先生の絵)に惹かれて即買いした本が、今回取り上げる一冊……矢部嵩『魔女の子供はやってこない』です。



小学四年生の安藤夏子の新しい友達は、魔女の国からやってきた女の子・ぬりえちゃん。人間の世界に実習で訪れたというぬりえちゃんは、魔法を使って人々の願い事を叶える「修行」をしているのでした。彼女の魔法は「死者を生き返らせる」「他人に変身する」「記憶を消す」など絶大な効果を生むものですが、ぬりえちゃんが誰かの願いを叶えようとする度、夏子はその摩訶不思議な術を手伝うことになり、大変な目に遭わされるのです……

……と、こんな風に設定だけを書き出すと、微笑ましくキュートなジュブナイルにも見えますが、うっかり純真な子供たちに読ませたらトラウマ化必至の、猛毒要注意な作品です。

そもそも夏子とぬりえちゃんの馴れ初めからして、願い事の用途を巡って、夏子の友達である小学生たちが惨たらしく殺し合いを遂げており、その埋め合わせとしてぬりえちゃんが友達になってくれたというもの。小学生たちを襲った惨劇の過程は猟奇的とか悪夢的とかいう段階を通り越してシュールの領域で、「特に人だけ殺せるジュース」などはもはやコミカルでさえあります。

そんなストーリーを紡いでいく文章表現も極めて尖っており、限りなく口語に近づけたために読点の位置や語順が異様な会話文、エキセントリックで適切な比喩表現、突然理性を失ったように饒舌になる台詞、膨大なルビなどなど、筒井康隆ほかの実験的作品を連想させる部分もあります。

ぬりえちゃんが魔法を使ったがために、罪無き人々が不幸に落ちたり、巻き添えで死者が出たりといった事態も日常茶飯事です。夏子が遭遇するのも、耐え難い全身の痒みとか昆虫の大群とかいった生理的嫌悪感を猛烈に引き起こすものから、変質者や殺人鬼の悪意といった胸の悪くなるようなものも。しかし夏子がまともかというとそうでもなく、人間の皮を剥がして押し花的に加工するといったような作業にも精を出し、ぬりえちゃんとの交流の中で、順調に色んなタガが外れていきます。ただ、物語全体としては、いい話になりかけたら冷や水を浴びせ掛ける底意地の悪さはありつつも、単純に倫理を踏み外していく悪趣味でファニッシュな作品というわけでもありません。

「今日あなたは三つものを願うか? 願うなら教えて欲しいな。今日私たちはそれを訊きに来たんだ。
一こ目の願いは多分上手に叶えてあげられないんだ。二番目に浮かぶようなものも私にはきっと難しいと思う。三番目くらいならあるいは力になれるかもしれない。もしあったら教えてよ。こんな日あなたに願うことが三つもあるのなら、私にだってやれることあるかも知れないんだ。お願いみたいな言い草だけどさ。私は他人で、万能じゃないし、叶えられないことなら山程思いつくんだけど、それでも出来ることはある筈なんだ」

上記に引用したぬりえちゃんの台詞は、自分が特に心に残った場面のもの。葬式にハロウィン姿で押しかけて、父親を亡くした少女に問いかける言葉です。このシーンに限らず、言葉の力で、不気味さとおぞましさと、名状しがたい謎の感動を心にもたらしていく、そんなパワーをもった異色の傑作です。

(同じ著者の作品『[少女庭国]』のレビューはこちら

2017年4月29日土曜日

怪獣映画の撮影が呼び覚ます、町の悲しき過去と「ほんもの」の脅威『大怪獣記』



今晩は、ミニキャッパー周平です。第3回ジャンプホラー小説大賞の〆切まで2か月。応募者の皆さんはGWを最大限利用してください! そして、私は平日であろうと連休であろうと、毎週金曜26時にはホラーブログを更新します。

さて、昨年は映画『シン・ゴジラ』が大ヒットしましたが、実は昨今、書籍のジャンルでも、『怪獣文藝』『怪獣文藝の逆襲』『日本怪獣侵略伝―ご当地怪獣異聞集―』『多々良島ふたたび: ウルトラ怪獣アンソロジー』ほか、怪獣をテーマにしたアンソロジーなどが次々刊行されており、ブームと言っていい活況を呈しています。巨大で圧倒的な存在感をもって人々に恐怖をもたらす「怪獣」。その魅力が今改めて注目されているのかもしれません。

というわけで今回取り上げますのは、北野勇作『大怪獣記』です。


 
『大怪獣記』というタイトルの映画を撮影するので、その小説版を執筆してほしい、という依頼を受けた作家の「私」。映画の舞台と撮影場所は、「私」の住む町。小説版執筆のための取材として、撮影現場に通う「私」だが、あり得ないほどの規模のセットの中に迷い込んだり、いるはずのない怪獣に踏み殺されそうになったり、奇天烈な体験を繰り返すことになる。やがて、「私」は町に隠された悲劇的な過去を知ってしまう。

映画は果たして完成するのか。そして、映画撮影の真の目的とは何なのか……?
 
 分かりやすく内容を説明するとこんな感じですが、ただこれだけでは、作品が持っている奇妙さの半分も伝えられていません。たとえば、主人公の「私」は小説版を書くために、映画監督からシナリオを貰おうとするのですが、映画のシナリオライターは町の豆腐屋の息子で、「私」に対してシナリオを「おから」の形状で渡してきます。この「おから」は、実は一種の記憶媒体であり、調理して食べることによって頭の中に映画の色んなシーンが浮かんでくる訳です。

……何を言ってるのかよく分からない方もいらっしゃるかと思いますが、奔放な幻想小説のように見えて、背後にこういった(夢の中のような)不思議な論理が、強固に周到に張り巡らされているのが作風でもあります。

撮影に入る前には、スタッフ総出で謎の古文書を読む儀式が行われ、映画のセットが再現しているのは「私」の思い出の場所で、撮影現場では「私」に似た正体不明のエキストラたちが踏み潰され、町の回覧板では「映画の為に作られた怪獣が逃げ出したので気を付けて下さい」という注意書きが回る。そういった小さなエピソードは、不穏なばかりでなく出所不明の郷愁の想いを掻き立てます。そして、クライマックスで町に襲い来る異形が見せる一大スペクタクルは、呆然とするほかない強烈な「イメージ」を残していきます。

北野勇作作品に既に親しまれている方には、今回は大怪獣でクトゥルフでさらに楢喜八のイラストつきですよ、という風にご紹介しますし、まだ北野勇作作品を読まれたことのない方には、牧歌的で残酷で哀切でノスタルジック、そんなワンアンドオンリーな世界観に、ぜひ一度触れて欲しい、といった感じでご紹介したい、そんな一冊なのでした。

2017年4月22日土曜日

腹話術師を包囲する災厄……ショートショートの神様による長編『夢魔の標的』

今晩は、ミニキャッパ―周平です。もうすぐ連休ですが、皆様もこの機会に読む長編ホラーをお買い求めになったり、第3回ジャンプホラー小説大賞の原稿準備を進められていることかと思います。私は、今週もホラーを探して書店や図書館を徘徊しています。

昨日は、刊行されたばかりの『文豪ノ怪談 ジュニアセレクション 霊』に、岡本綺堂や久生十蘭の作品とともに、星新一の掌編が収録されているのを見つけて嬉しくなってしまいました。そう、星新一といえば、SF作家、ショートショート作家というイメージが強いのですが、強烈な読後感を残すホラー作品も数知れず発表しています。

ユーモラスな事件やおかしな現象から幕を開けつつも、最終的には大量殺戮や地獄絵図にたどり着く様を、スマートな文章で鮮やかに描く。そんな、初期の切れ味鋭いSFホラーに有名作品が多い一方で、『つねならぬ話』などの後期の作品集に収録された、民話調の物語などには、因果も因縁も一切分からない異様な後味の怪談も多数含まれており、個人的にはどちらも捨て難いです。

今回は、星新一の印象深いホラー作品を色々とご紹介しようかとも思ったのですが、大半がショートショートであり、タイトルを挙げてホラー作品だと明言したとたんに致命的なネタバレになってしまうものも多いです。そこで、星新一の数少ない長編作品より、『夢魔の標的』をご紹介させて頂きます。



「私」は、クルコと名付けた人形をパートナーに、テレビ番組などで活躍している腹話術師。順調に人気を獲得しつつあったある日、何の前触れもなく、クルコは「私」の口を借りて、勝手に喋り出し始めた。人間を見下すような発言を繰り返し、「私」の生活を揺るがし始めたその正体は何者なのか? そして、何を引き起こそうとしているのか……?

前半から中盤にかけては、占いの奇妙な結果、不思議な装置の登場する夢、意思に反して喋る腹話術人形、といった、互いにどんな繋がりがあるか分からない不穏な材料が、主人公の日常の中に少しずつ混ざってきて、議論や思索を繰り返すうちに徐々に不安が募っていく――といった内容で、発表から五十三年も経った作品だけあって、現代のホラーに比べると、比較的大人しめであるようにも感じます。

しかし物語が三分の二を過ぎ、主人公の置かれた状況と、彼を脅かす者の存在が明らかになってからの展開は、非常にサスペンスフルです。「世界中の人間が自分を妨害している」という誇大妄想を具現化したようなシチュエーションで、試行錯誤を繰り返し何とか突破口を開こうとする主人公を嘲笑うかのような事態が、次々と降りかかります。自分以外の全ての人間、どころか、自分自身をさえ迂闊に信じることはできないのです。読者は主人公の一喜一憂に心を揺さぶられるでしょうし、次第に道を塞がれる絶望に痺れるでしょう。焦燥感に満ちた心理描写や、激情を発露する主人公など、星新一作品では珍しいとも言える部分に読みどころのある、意外な長編SFホラーなのです。

本作は、星新一のキャリアの中でも初期に位置するもので、こういった方向性に突き進んでいけば、全く異なるタイプの作品群を書いていたかもしれない、そんな妄想さえしてしまう一冊でした。

2017年4月15日土曜日

大切な人は、偽物かも知れない……猜疑の心が闇を呼ぶ「神隠し」ホラー『マガイの子』

 今晩は、ミニキャッパー周平です。第2回ジャンプホラー小説大賞受賞の2冊『たとえあなたが骨になっても』(『先輩が骨になった』改題)、『舌の上の君』6月発売予定となりました。詳報は追ってお伝えしますのでどうぞお楽しみに‼ 第3回ジャンプホラー小説大賞も募集中です‼

 さて、ホラー小説には様々なジャンルが存在しますが、私が一番好きといっても過言ではないのが、「神隠し」ものです。そもそもは、子供のころ、『ドラえもん のび太の日本誕生』で、ドラえもんが世界中の神隠し事件について具体例を挙げて説明しているシーンを見て、幼心にトラウマを刻みつけられたのがきっかけで、松谷みよ子『現代民話考』の神隠しパートで興奮したり、小田雅久仁「11階」(『S-Fマガジン』20136月号)に感動したり……というわけで、今回は昨年書かれた「神隠し」テーマの一編、名梁和泉『マガイの子』です。



 坂見風哩・坂見怜治姉弟の生まれ育った鞍臥村には、とある魔物の伝承が存在した。村の山には魔物「マガイ」が住んでおり、神隠しに遭った子供を食い殺して、犠牲者そっくりの偽物、「マガイの子」を産み落とす。一度失踪してから帰ってきた子供は、「マガイの子」に成り代わられた偽物であり、成長するにつれて獰猛な本性を現し、周囲の人間に災いをもたらすのだ――というもの。

 風哩は小学六年生の時、山で「神隠し」に遭った。彼女は弟によって見つけ出されたため無事に生還したが、風哩に同行していた村の若者は変死体で発見された。それ以後、土地の大人たちばかりか、実母からも、「マガイの子」であるという疑念を向けられることになった風哩を、怜治はただ一人の味方として支え続けた。

 そして、神隠し事件から八年。村を出て、美大生となった風哩の周りでは、人間の理解を超えた事件が起こる。一方、村に残った怜治の周囲では、新興宗教団体の進出によって、迷信が更に深まっていく。それらと時を同じくして、風哩よりも前に「神隠し」に遭い、同じく「マガイの子」疑惑を掛けられていた村の男が、殺人容疑で指名手配される――

 「マガイ」は実在するのか? 八年前の神隠し事件で何が起こったのか? 風哩は人間なのか、それとも「マガイの子」なのか? そんな謎の数々に引きこまれ、一晩で読み切りました。中盤では、神隠しと子供の帰還という現象に対する作者なりの回答が示されており、そこからほの見える幻想的な光景と、特異かつ強固な世界観が、(たとえば、クトゥルー神話が持つ吸引力にも通じるような)魅力となっています。絶望的な状況において一筋の光となる、互いを想い合う姉弟の絆も美しいです。


 さて、サードシーズン用に紹介するために準備したネタが早くも尽きました。また神保町の書店を巡り、ホラー小説棚の周りでうろちょろする日が始まるようです。

2017年4月8日土曜日

「どんぶりさん」が追ってくる‼ 顔をくり抜くノンストップホラー『夜葬』

 今晩は、ミニキャッパー周平です。第3回ジャンプホラー小説大賞、絶賛募集中です‼ 第2回ジャンプホラー小説大賞の受賞作2冊『たとえあなたが骨になっても』(『先輩が骨になった』改題)『舌の上の君』の発売日も、(たぶん)来週にはここでお伝えできるかと思います。

 さて、このブログではサードシーズン以降、ご紹介する本の画像を、私がスマホで撮影して掲載しています。長年ガラケーで通していたのですが、「連絡が取りづらい」と編集部一同の非難を浴び、とうとう昨年スマホデビューしたわけです。まだ慣れない文明の利器に四苦八苦しておりますが、それはさておき。
 本日は、そんなスマホを用いて「新しい都市伝説」を生み出そうとする野心作、最東対地『夜葬』です。



 スコップで顔を抉り取られた惨殺死体が、日本全国で相次いで発見される。連続猟奇殺人事件として話題が沸騰する中、TV番組制作会社の袋田翼と朝倉三緒は、事件の真相を追うべく調査を開始した。しかし、唯一の情報提供者が、不可解な証言を残して失踪を遂げてしまう。
 同じころ、夜のコンビニで一冊の本「最恐スポットナビ」を手に入れた青年は、本を通じて「鈍振村(どんぶりむら)」の都市伝説について知る。「鈍振村」のグロテスクな葬儀の風習に背筋を寒くしていたその時、突然、自分のスマホが受信を告げ、音声ガイドを開始し……

 本作のイチ押しポイントは何といっても、オリジナル怪談「どんぶりさん」。このファンシーな名前からは想像できない、執拗で不気味な性質をもつモンスターです。

 冒頭で明かされるのですが、鈍振村で行われていた「夜葬」とは、死んだ人の顔を抉り取って、そこに炊き立ての白飯を詰めるという奇奇怪怪なもの。葬儀では、そのご飯を皆で食べるそうです(悲鳴)。作中で人々を餌食にする「どんぶりさん」は、そんなプリミティブな因習から生まれた怪異なのですが、一方で、LINEのようなアプリでこちらにメッセージを送り付け、更にスマホの音声ガイドで接近を知らせてくる現代的な一面もあります。『目的地が設定されました』『このまま道なりです』『間もなく目的地付近です』などという、皆さんお馴染みであろうあのボイスがスマホから鳴り響き、逃げても逃げても「どんぶりさん」が追いかけてくる様は、2000年代にブームになった怪談「メリーさん」を更に現代的にアップデートしたような趣きも感じられます。私は、深夜スマホを横に置いて一人この本を読んでいたので、着信があるたびに心臓が止まりそうになりました。

 読者の胸に強烈なインパクトを残していく「どんぶりさん」。もともとは個人の作家による創作であった怪談が、時代を経るうちに「実話」として語られていく、という例は古今東西にある訳ですが、もしかしたら十年後、本当に、都市伝説や怪談の実録本に、鈍振村と「どんぶりさん」が実在の怪異として語られる日が来るかも知れません。


 (過去記事ハイパーリンク)追いかけてくる怪異といえば、この回でご紹介した「おもひで女」もお勧めです。

 (CM)第1回ジャンプホラー小説大賞銅賞受賞作家・坊木椎哉のデビュー作、『この世で最後のデートをきみと』絶賛発売中です‼

2017年4月1日土曜日

レビューを書くのさえ怖くなる、ホラー作家の内幕小説『恐怖小説キリカ』

今晩は。ミニキャッパー周平です。絶賛募集中の第3回ジャンプホラー小説大賞の〆切まであと3ヵ月となりました。規定のページ数は上限118枚(40字×32行)という分量であり、今からでも遅くはない(はず)ですので、ぜひぜひ、作品をご執筆・ご投稿下さい。第1回受賞者(『少女断罪』『この世で最後のデートをきみと』)、第2回受賞者(『先輩が骨になった』『舌の上の君』)に続き、次にデビューするのは貴方かも知れません。

という訳で、今回は、とあるホラー作家のデビューを描きつつ、読者にとびきりの恐怖をぶつけてくるアクロバティックなホラー、澤村伊智『恐怖小説キリカ』をご紹介します。




香川隼樹は、自身の書き上げたホラー長編『ぼぎわん』でホラー小説賞を受賞。「澤村伊智」のペンネームで晴れてデビューする運びとなり、受賞作の刊行に向けて編集者と打ち合わせを始める。だが順風満帆に見えた彼の生活は、「人間として真っ当な生活を送っている者は作家になれない」という妄執を抱える、小説サークルの仲間によって壊されていく。その魔手は愛する妻・霧香にまで迫り、香川は必死の抵抗をするが……。

……というあらすじで説明できるのは前半まで。ここまででも、歪んだ創作論を振りかざして主人公を追い込んでいくストーカーの恐怖は十分におぞましいですが、中盤で物語はがらりと様相を変えます。読者が感じていた名状しがたい違和感の正体が暴かれ、そこから、ある種のモンスターが暴虐の限りを尽くすジェットコースター的展開が待っているのです。そこで発露される暴力の数々は理不尽で残酷なものなのですが、しかし読み手によっては、無上の爽快感さえ覚えてしまうという、アンヴィバレントな体験をすることになるでしょう。

フィクションとノンフィクションの境界を曖昧にする、疑似ドキュメンタリー形式も特筆すべき点です。物語のメインキャラクターは作者・澤村伊智自身、作中で出版される作品群もそのキャリアをなぞり、登場する出版社も実名、編集者との改稿打ち合わせも具体的に描かれ、ホラー賞審査員の作家らも実名で登場――といった具合。

それにより、どこまでが実際にあったこと・実在の人物で、どこからが作りごとなのか、まるで精巧な騙し絵のように区別がつかなくなり、読者はやがて、現実と虚構の壁を食い破る魔物に怯えることになるでしょう。最後の最後まで作者の企みが貫かれており、私は「最後の一文」を読んだとき、「一見したところ普通だが、この物語のラストに置かれたときとても禍々しいものになる」そんな文章に、思わず声を上げてしまいました。

私は未だに、こうして『恐怖小説キリカ』の感想を書くのには少々恐怖を感じており、もしこのブログの更新が今回で止まったら、この本が原因だと思います。何とか無事に来週を迎えたいものです。



(CM) 第2回受賞作の二本、『たとえあなたが骨になっても』(『先輩が骨になった』改題)、『舌の上の君』は、出版へ向けて現在絶賛校正作業中。発売日が決まったら告知致します!)

2017年3月25日土曜日

「怖い話」が二人を繋ぐボーイミーツガール『おそれミミズク あるいは彼岸の渡し綱』



今晩は。ミニキャッパー周平です。第3回ジャンプホラー小説大賞、絶賛募集中です‼ 第2回受賞作の2冊も現在絶賛校正中ですのでぜひお楽しみに‼

さて本日は、前回の『裏世界ピクニック』に引き続き、「怪談」をテーマにした作品をご紹介致します。お題はオキシタケヒコ『おそれミミズク あるいは彼岸の渡し綱』。




田舎町に越してきた12歳の男子小学生・逸見瑞樹(へんみみずき)は、自転車で探索中、古い屋敷にたどり着き、その土蔵で座敷牢に閉じ込められた少女に出会う。外の世界を見ることのできない彼女は「怖い話」を聞くことを何よりの楽しみとしていた。瑞樹は、怪談を集めて週に一度彼女のもとへ赴き、語り聞かせることになる。

瑞樹は余りに多くの怪談を読み漁ったため、日常の些細なことにも怪異の影を見て怯えるほど臆病になってしまうが、それでもなお、怪談雑誌を買い込んでネタを仕入れ、毎週、少女のところへ通い続けた。だが、二人の出会いから十年が経った頃、町に「失せ物探し」を請け負う正体不明の男が訪れたことをきっかけに、秘密の関係は終焉に向かう。

まず、「怖い話が苦手な主人公が、怖い話好きの少女を喜ばせるため怪談を語り聞かせる」というシチュエーションがリリカルで美しく、怪談という素材はこういう形で調理することもできるのか、と新鮮な驚きがあります。そして、瑞樹の仕入れてくる実話怪談がいかにも本物らしく、背筋をぞわりとさせる不気味なリアリティに満ちています。瑞樹と少女の座敷牢でのやりとりのシーンは、静謐な闇の質感、冷たさが、ページ越しにひしひしと伝わってきます。

とはいえ、作者が読者を怖がらせようとしているのは物語の前半までで、後半では、少女や少女を閉じ込めている者たちの素顔、瑞樹が感じている恐怖の源泉、作中で語られた怪談の真実、死後の世界の正体、などの大小さまざまな謎について、怒濤のように「謎解き」が行われ、物語を覆っていた闇が晴れていくことになります。時に伝奇的であり、時にミステリ的であり、時にSF的である、そんな真実が次々開示され、読者は驚愕せざるを得ないでしょう。そんな、様々なジャンルに跨るようなこの作品を貫いているのは、ボーイミーツガールとしての温かさ。爽やかな読後感を求める方に推したい一冊です。

毎週一度、ブログでホラー作品を紹介するというミッションを数か月繰り返すだけで、ネタ切れに苦しんでいる私としては、怪談集め&怪談語りを十年に渡って続けた主人公に対して頭の下がる思いですが、「怪談を読みすぎて夢見が悪くなる」「怖い話に触れすぎて普通の生活でもビビりになる」という状態には、深く共感する次第です。

というわけで、怖い話を「語る」ホラーでしたが、来週は、怖い話を「書く」物語です。