2016年1月30日土曜日

本日より映画全国公開!『残穢』はなぜこんなに怖いのか?

こんばんは。この間、全身をスズメバチに刺される夢を見てしまったミニキャッパー周平です。嘘ではありません。針が異様に長かったです。

まずはCMから。第1回ジャンプホラー小説大賞<銅賞>受賞作『ピュグマリオンは種を蒔く』のWEB公開がはじまりました。選考会激震の猟奇純愛ホラー、ぜひご一読を。

さて、いつもは「自由気ままに闇雲に」をモットーにホラー作品をレビューしていますが、今回はタイムリーなものを取り上げてみます。ずばり、小野不由美『残穢』。



本日、つまり1月30日(土)より実写映画が全国公開されるこの小説を、勝手に便乗してご紹介致します。映画版を観に行かれるご予定の方は、ネタバレにご注意ください。

そのあらすじは――という風にいつもなら紹介をはじめるのですが、まず一言。
怖いです。めっちゃくちゃ怖いです。
深夜のファミレスでこの本を読んでいたんですが、近くの客が椅子から立ち上がる時の些細な物音だけで、もう全身がビクッと硬直してしまいましたし、「ひとけの無い夜道を歩くのが怖くて仕方ない」という、小学生の頃の感覚を取り戻し、足早に帰宅しました。そのくらい恐ろしい小説です。

小説家の「私」は、読者・久保さんからの手紙――部屋の中で畳を擦るような物音を聞いたという体験談――をきっかけに、久保さんの住む「岡谷マンション」に出現する怪異の原因について調べ始めることになる。しかし調査すればするほど謎は膨らみ、その地に潜む闇が根深いことが示されていく……。

と、あらすじを示しただけでは、この作品の凄さは伝わりません。
『残穢』でまず徹底されているのは、「フィクションらしさ」を可能な限り排除するという点。
語り手の「私」は、明らかに作者・小野不由美であり、さらに平山夢明や福澤徹三といったホラー作家も実名で登場。「私」やその知人たちが怪異について聞き取りや資料探しを進めていくという形式で、淡々と、ドキュメンタリーのような文体で物語が綴られていきます。それらの道具立てのせいで、読んでいるうちに何度も『小説』ではなく『実際にあった話』を読んでいるのだと錯覚してしまいます。

そして、明らかになる怪異のひとつひとつは、決して荒唐無稽なものではなく、怪しい物音とか虫の知らせとか家族の不幸とか、「自分に起こるかもしれない」身近さの、じわりと怖い実話怪談的エピソード。それぞれは小さく不可解な怪談でも、手繰り寄せるうちに、背後に横たわる巨大な「怪異」の息づかいのようなものが徐々に感じられてくる。時代を遡るにつれ、少しづつ手がかりが減っていくものの、歴史の壁の向こうに、僅かにその正体がほの見える……まるで神話を読んでいるような畏怖と、底知れない恐怖があります。

紛れも無い傑作ホラーですが、読了後、私生活に実害が出るレベルで恐怖が残り続けるので、ぜひお気をつけてお読みください。

※『残穢』の書影はAmazonより転載しました。

2016年1月23日土曜日

ホラーなのに、面白おかしく

今晩は。ホラーにとりつかれた男こと、ミニキャッパー周平です。
第1回ジャンプホラー小説大賞<銅賞>受賞作「ピュグマリオンは種を蒔く」のWEB公開、おそらく来週になると思います。選考会紛糾の超問題作に、乞うご期待!

第2回ジャンプホラー小説大賞も、絶賛募集中です。WEB応募も可能なので、ぜひご応募ください。
さて、私事ですが、最近、ホラー小説の読みすぎで、ときどき悪夢を見るようになりました。このままでは私自身がホラー体験をしてしまう日も間近です。これはいけない。
という訳で、本日はホラー作品の中でも、「怖さ」が主眼に置かれていない、コミカルなものをご紹介します。

まずは伝説的な怪奇小説作家・式貴士の短編から、「血の海」(『カンタン刑―式貴士怪奇小説コレクション』収録)。




病に侵されて常に貧血気味の妻のため、「血がたくさん欲しい」という祈りを捧げた男。翌朝、洗面所の蛇口をひねると、流れ出したのは水ではなく、新鮮な血液。
それどころか、水槽の水や河川、海の水にいたるまで――
世界中の水という水が突然、人間の血液に変貌してしまっていた。
水は全く存在せず、空からは文字通り血の雨が降るようになってしまった世界で、人類はいかにして生きていくのか? 深刻なサバイバルではなく、激変した環境をあっけらかんと受け入れ、それに適応していく主人公たち家族や、人類の姿がユーモラスです。ある意味、究極の吸血鬼小説とも言えるかもしれません。


続いては、『学校の怪談』ノベライズなどもつとめたファンタジー/ホラー作家・岡崎弘明の「帰省ラッシュ」(『奇妙劇場 ロング・バケーション』『たんぽぽ旦那』収録)。



夏休み、帰省先の鹿児島から東京の自宅へ帰る途中、Uターンラッシュに巻き込まれた家族。空いている電車をなんとか探して乗りこんだものの、その車両はJR霊界の寝台特急、黄泉八二号。本来は死者が利用する路線なのだが、赤字のため生者の客も乗せることになったのだとか。
かくして、死者ばかりの電車に乗ってしまった一家ですが、駅で「冥土の土産」を押し売りしてくる奴はいるわ、乗り換えに失敗して地獄に辿りつきそうになるわ、JR東霊界とJR西霊界の対立に巻き込まれてトラブるわ、ホラーでありながらスラップスティックなドタバタ喜劇が繰り広げられます。


とどめは幻想ホラー作家・遠藤徹の短編「カデンツァ」(『壊れた少女を拾ったので』収録)。



倦怠期の夫婦。妻の妊娠が発覚したものの、夫には身に覚えがない。そう、妻は不倫相手の子を身ごもったのだ。
妻の不倫相手とは――炊飯器。正確には、十合炊きのIH炊飯ジャー「炊きだし」。
そう、妻は夜な夜な炊飯ジャーと語り合い、キスをし、逢瀬を重ねていたのです。あまりの事態に戸惑いと怒りを隠せない夫ですが、しかし夫は夫で、ホットプレート「アンナ」にご執心。夫の方もやがてアンナ(ホットプレート)と肉体関係を結びます。
こうして語られるのは夫婦を中心とした、人間と家電製品の爛れた性愛模様。プロット自体は普通なのに、人間が家電と睦み合う異様な世界なので、この世のものとは思えない爆笑の光景が展開されます。

というわけで、コミカルホラー特集でしたが、今日は怖いというより、いわくいいがたい奇天烈な夢を見そうな予感がします。

(※『カンタン刑』 『壊れた少女を拾ったので』の書影はAmazonより引用しました。)

2016年1月16日土曜日

デスゲーム小説の最高峰



今晩は。金曜深夜2時の男こと、ミニキャッパー周平です。
第2回ジャンプホラー小説大賞、絶賛募集中です。WEB応募も可能なので、ふるってご応募ください!

今夜のテーマは、ホラーの中でも一ジャンルを築いている「デスゲームもの」。
脱出不可能な場所に数人~数十人が閉じ込められて、理不尽なルールのもと、生き残りをかけて争う――という作品です。発表数が多いため、どれを紹介しようかと迷っていましたが、本日は、ホラー界の名匠による傑作を選んでみました。

今回ご紹介するのは、貴志祐介『クリムゾンの迷宮』。


失業中の男が記憶を失って目覚めた場所は、火星を思わせる巨大で異様な峡谷の底。身の回りにあったのは、わずかな食料と水、そして、何者かからの指令が示されるゲーム機のみ。ゲーム機の指示に従って峡谷を歩く男は、やがて、自分と同じ状況下にある八人の男女と、生き残りをかけたゲームに参加させられていることを知る――

この作品が、いわゆる「デスゲームもの」の中でも異彩を放っているのは、圧倒的なリアリティと描写力です。
物語の舞台は架空の場所ではなく、地球上のとある地点。作中では、緯度と経度まで詳細に示されます。そこに生息する猛獣や、毒を持つ生物から身を守り、狩猟や採集で飢えをしのぐ、という極限状況下でのサバイバル。作者が徹底的に「取材」を重ねているのでしょう、匂いや湿度さえ伝わってきそうな、臨場感溢れる描写となっています。

そして当然ながら、様々な『悪意』や『暴力』を描いてきた作者の手腕は、デスゲームのエグさにも最大限に発揮されます。

ゲーム主催者側が用意した罠、ゲーム進行にともなって参加者の中に生じる不和など、序盤で「嫌な予感」や「違和感」を与えたものが、ページが進むにつれてその正体を現し、最悪の形で主人公に襲い掛かります。そして吹き荒れる殺戮の嵐。残虐さや恐怖のあまり、恐る恐るページをめくる箇所もありましたし、姿を見せない異形の「怪物」の声が、主人公たちに少しずつ少しずつ近づいてくるシーンでは、読みながら自分の心拍数が上がるのを感じました。

異常な環境でありながら、決して荒唐無稽にならず、迫真性を失わないストーリーテリングの力。徐々に恐怖を高めていく、語りの魅力。何気ない描写に隠された伏線を拾っての、ミステリ的などんでん返し。どれもが一級品と言えます。

これからサバイバルサスペンスやデスゲームを書こうとしているホラー作家志望の人にはぜひ一度読んでもらいたい、プロフェッショナルな一冊です。

(※『クリムゾンの迷宮』の書影は、Amazonより引用しました。)

2016年1月9日土曜日

ようこそ、殺戮とセックスの教室へ。


あけましておめでとうございます。ミニキャッパー周平です。
本年も、ジャンプホラー小説大賞を盛り上げるため、様々なホラーを紹介して参ります。

新年一発目なので、今回はとびっきり破壊力の高い作品を取り上げましょう。
お題は、倉阪鬼一郎『殺人鬼教室 BAD』。



これまでご紹介したホラーのなかでも一番過激な――映画だったら間違いなく、R-18になるようなものです。

という訳で本日のブログは、18歳未満と、心臓の弱い方は閲覧注意。

とある学園での「歴史」の授業中……教師は、「昔の刑罰の実験」と称して、男子生徒をいきなり電気椅子に座らせる。

しかし、男子生徒は期待に満ちた顔で処刑を迎え入れ、クラスメートたちは興奮と歓喜に包まれてそれを見守る。電流が流され、彼の死が確認されると、クラスメートたちは一斉に拍手する――この異様なシーンから始まって、

「体育」の授業では老人の首に縄を掛けて引きずって競争し、「音楽」の授業では死者の断末魔をもとに曲を作る、などなど。

もの凄くエグい内容が、生徒の一人である主人公の視点から、何の疑問も差し挟まれないまま語られていく。なぜなら、この学園では「死は最大の快楽である」と教えられているから。

「死」に対する扱いが異常なばかりでなく、「性」に関する扱いも普通ではない。この学園では場所も時間も問わず、あちらこちらで、多人数での性行為が行われている。だが、誰もそのことに疑問を持っていないどころか、奨励さえされている。なぜなら、死と性の快楽こそが神への奉仕になると信じられているから。

このセックス&バイオレンスな、倫理観がぶっ壊れた学園は、世界は、一体何なのか……という、読者が当然抱くであろう疑問、謎の追求こそが、本作品の核となります。

ただし、その道のりも並大抵のものではありません。この社会に疑問を抱いた人間は、秘密裏に消されるか、公開処刑されてしまいます。世界の秘密を知ろうと冒険に出かけた少年は、瀕死の状態で帰り着いて、今際の際にたった一文字「G」と書き残して死亡。主人公たち<世界の秘密>研究会の面々も、次々に惨たらしい死を迎えます。

非道徳的な光景が次々に現れるおぞましい内容である一方、ディストピアとの対峙、世界の秘密を暴こうとする若者の冒険、という非常にまっすぐなドラマが根幹にあることは見逃せません。「恐怖」と「愛」の感情を禁じられたこの世界で、冒険の果て、主人公が最後に手に入れるものは……? 主人公の想いに、心を揺さぶられること必至のラスト。エロスとバイオレンス、あとスプラッターが大丈夫な方にはお勧めです。

さて次回は……と予告したいところですが、何も決まってないので、明日書店をめぐって決めてきます。とりあえずR-18じゃない本で。

(※書影はAmazonより引用しました。)