2016年6月4日土曜日

刻々と迫り、そして、扉の前に

 今晩は。ミニキャッパー周平です。第2回ジャンプホラー小説大賞応募〆切まで1ヶ月を切りました。応募を予定している方は、ラストスパート頑張ってください!

 私もここまでのレビューを読み返したりしているのですが、吸血鬼やゾンビなど西洋系のモンスターに比べて、日本の妖怪や怪物を扱った作品をあまり取り上げていないと気づいたので、今回は、澤村伊智『ぼぎわんが、来る』をご紹介します。



 主人公・田原秀樹が、幼いころ、玄関のガラス戸の向こうに垣間見た、異形の怪物。
家の中に入ってこようとする、正体不明の「それ」に襲われかけた秀樹だったが、祖父のおかげで難を逃れることができた。
 秀樹の祖母が後に教えてくれたところによると――
「それが来たら、絶対答えたり、入れたらあかんて。玄関来たら閉めて放っといたら仕舞いやけど、勝手口に来たら危ないて。んでな、勝手口が開いとったらもう駄目なんやて。捕まって山へ連れてかれるて。ほんまに連れてかれた人もぎょうさんおったって」(本文p18)
 呼びかけに応じてしまった者を連れ去っていく、その怪物の名は「ぼぎわん」。以来、秀樹の心には、「ぼぎわん」の恐怖がつきまとうことになる。歳月が流れ、結婚し娘が生まれた秀樹のもとに、「ぼぎわん」の仕業としか思えない災厄が降りかかる。秀樹はなんとかして妻と娘を守ろうとするのだが……。

 この物語の最大の魅力はやはり「ぼぎわん」という怪物。その名前の意味や、生まれた土地、生態についてなどは、比較的早い段階で判明します。が、相手の正体が分かったところで、「ぼぎわん」の恐怖はいっさい減じることはなく、逃げても逃げても追ってくる執念深さ、霊能力者を返り討ちにする獰猛さ、標的を罠に嵌める狡猾さに、秀樹は追い詰められていきます。いわゆる「神隠し」を行う妖怪でありながら、静かに人を連れ去っていくようなつつましさは全く無く、人間をかじり殺すなど残虐そのもの。さらに、人を騙して攫う妖怪ならではの「どんな人間の声も真似することができる」という特技が凶悪で、「ターゲットの友人知人の声を使って騙し討ちする」という芸当までやってのけます。日本妖怪的なじめっとした恐ろしさと、西洋モンスター的な凶暴さを併せ持つ、そんな「ぼぎわん」が何度も襲撃をかけてくるので、全編通してスリルにあふれた作品になっています。

 そして、物語に横たわる大きな謎は、なぜ「ぼぎわん」が秀樹の家族に狙いを定めたのか、という点。そこには、古来の怪物にも勝るとも劣らない脅威、現代に生きる「普通の人」の抱える歪みが隠されています。
 第1章「訪問者」で描かれた秀樹の恐怖体験は、第2章「所有者」にいたって、まるで騙し絵のように構図が裏返って、読者を驚愕させますし、第3章「部外者」では、「ぼぎわん」を呼び寄せたすべての因縁――「悪意」や「罪」が、残らず解き明かされることになります。

 古き時代の怪物を、現代人の背負う闇によって再び召喚し、新たな恐怖を与える物語。そんな現代的ホラーを探す人にお勧めしたい一冊です。
 それと、「家族」と正面から向き合うことが大切だ、というのが身に染みる話なので、最近家族とすれ違っているかもしれない、という人はマストで読みましょう。放っておくと大変なことになります。

(※書影はAmazonより流用しました。)