2016年6月18日土曜日

47年前の傑作アンソロジー

 今晩は。ミニキャッパー周平です。第2回ジャンプホラー小説大賞の締め切りまで、今回を含めて、更新はあと2回。
 ここはよほどの本を紹介しないと……というわけで、傑作アンソロジー『異形の白昼 恐怖小説集』をご紹介。

 四十七年も前に編まれたものですので、既に古典と言っていい領域の一冊です。
 しかし、名アンソロジスト筒井康隆が、当時第一線で活躍していたミステリ作家・純文学作家・SF作家など、様々な名匠の傑作短編を集めた本だけあって、現在でもその輝きを失っていません。格調高い文章で綴られる恐怖の物語に、時代を超えて深く耽溺することができます。

 それぞれの作家が、それぞれの芸風を存分に発揮しているので、ひとまとめに語ることは困難ですが、まずは、SF作家の作品から見ていきましょう。
 SF作家の作品は、どちらかというと、「理に落ちる」ことが多いものなっています。
 星新一「さまよう犬」は繰り返し見る夢を題材に扱った幻想的なショートショート。星新一には珍しい、ロマンティックな余韻が光ります。
 眉村卓「仕事ください」は自分の想像力によって生み出した<奴隷>に付きまとわれる、というアイデア・ストーリーで、エスカレートした後の静かな結末が、線香花火のような哀愁を誘います。
 小松左京「くだんのはは」は、終戦間近の日本を舞台に、予言を行う怪物「くだん」に迫っていく作品。オチでもある「くだん」の姿は、現在では驚きは無くなっていますが、戦時下に秘密を共有する、ひそやかなムードで読まされる作品です。
 筒井康隆「母子像」は、どこにでもあるようなオモチャが、主人公の妻と幼子を異界へ導く、という物語。ラストで現出する、ふたつの世界に引き裂かれた異様な母子の姿は、本書中もっとも映像的で、鮮烈なイメージを残します。

 純文学系の作家の短編は、やはり文章の力が際立ったものになっています。
 遠藤周作「蜘蛛」は、怪談の会に出た主人公が、帰り道のタクシーで本物の怪異に遭遇する――という内容で、プロットは地味ながら、生理的嫌悪感をもたらす描写や、語りの魔力に味わいがあります。
 曾野綾子「長く暗い冬」は、日本から寒い異国へ越した父子の、陽の差さない日常生活の中で、降り積もる雪のように不吉な予感が高まっていく物語。
 吉行淳之介「追跡者」は、「終電車の中で、彼はその女と眼が合った。」の一文から始まる、二ページ足らずの掌編。ですが、古典的な怪異体験を、極限まで切り詰めた文体の中に落とし込んで、凄味があるものに仕上げています。思わず朗読したくなるような文章です。

 変わったところでは、官能小説家の作品(宇能鴻一郎「甘美な牢獄」)も収められています。中国の寺院で牢に入れられた男の告白。背徳的な願望に囚われた彼の薄暗い幼少期を、エロティックに描き出します。

 この本でもっとも多くの分量を占めているのは、推理作家(ハードボイルド作家も含む)の短編です。
 結城昌治「孤独なカラス」は、恐るべき子供――いわゆるアンファンテリブル・テーマの一本。心を閉ざし、蛇や虫を殺して遊んでいる子供、その無垢な邪悪さが、弱き者に牙を剥きます。
 都筑道夫「闇の儀式」は、人里離れた別荘で、酒の勢いに身を任せて悪魔召喚の儀式を行った男女の辿る顛末。モダンホラー的な展開の中で姿を現すモンスターの姿が、粘着質で湿っぽく不気味です。
 戸川昌子「緋の堕胎」は、非合法の堕胎手術を行う医師の下で働く、書生の青年が犯した罪についての物語。登場人物たちの愛憎、情念が丹念に書き込まれ、巧みな構成もあってサスペンスフルに仕上がっています。

 そして、推理作家の作品のうち、特に推したい作品が二本。
 一本は笹沢左保「老人の予言」。作家である主人公が、旅館に逗留中、老人と合い部屋になる。老人は、刑務所から出たばかりであること、若いころ痴情のもつれで芸者を殺してしまったことを、後悔交じりに告白する。――しかし、情感豊かに語られていた物語は、最後の最後で突如として転調し、ショッキングで不条理な結末へとつながる。

 もう一本が、生島治郎「頭の中の昏い唄」。単調な校正作業や上司に叱責される日々に倦んだ、出版社勤めの若者が、ある少女と出会い、「秘密」を手に入れることによってその生活が一変する、というもの。
 私がこの作品を好きなのは、(主人公と同じく出版社勤めというのもありますが)彼の抱え込んだ「秘密」の明らかに人知を超えた部分や、不意打ちされるような結末が、想像を絶しているからです。突き詰めたフェティシズムが幻想小説に昇華されていく名品です。

 というわけで、私の特に好きな作品を5編上げると、生島治郎「頭の中の昏い唄」、笹沢左保「老人の予言」、吉行淳之介「追跡者」、筒井康隆「母子像」、宇能鴻一郎「甘美な牢獄」。バラエティ豊かな作品がおさめられており、読者によってそれぞれ異なるマイベストを選べると思います。

 次回が〆切前最後の更新になります。私も頑張りますので(何のレビューをするか、やはりまだ決めていません)応募者の皆さんもぜひラストスパート頑張ってください!!

(※書影はAmazonより流用しました。)