2015年12月26日土曜日

人類、吸血鬼に敗北す


今晩は。ミニキャッパー周平です。

 年の瀬の慌しい時期ですが、世間の雑事を離れ、ホラーの世界に浸ってみませんか。
 今年最後の更新は、前回の予告どおり、華麗な吸血鬼の登場する物語を。
 (華麗な吸血鬼の遍歴を描いた『終わりのセラフ 吸血鬼ミカエラの物語1』も絶賛発売中ですよ!)

  ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』は、老獪な吸血鬼ドラキュラ伯爵と、ヴァン・ヘルシング教授をはじめとする人間たちの戦いを描いた、言わずと知れた古典ホラーの代表作ですが——今回ご紹介したいのは、その『吸血鬼ドラキュラ』へのオマージュ、というよりは、吸血鬼ジャンル全体へのオマージュ、あるいは総決算のような作品です。



 その名も、キム・ニューマン『ドラキュラ紀元』。

 ここに描かれるのは、「ドラキュラ伯爵がヴァン・ヘルシング教授に勝利した世界」なのです。

 大英帝国に現れたドラキュラは、ヴィクトリア女王を自らの眷族とし、女王と結婚。護国卿として、プリンスとして絶対的な権力を手に入れる。首相をはじめ政府要人は吸血鬼に占められ、ヘルシング教授ら敵対勢力は公開処刑された。かくて、吸血鬼が人間を支配する、異形の大英帝国が誕生した!

 人間は「温血者(ウォーム)」と呼ばれ、被支配階級に身を落とした。貧しい人も富める人も、吸血鬼になれば様々な不遇から解放されると信じ、次々に人間を捨てていく。そんなヴァンパイア帝国の首都ロンドンで、吸血鬼の女性をターゲットにした連続殺人事件が起こる。現実世界でいう「切り裂きジャック」事件だ。
 吸血鬼を憎悪していると思しきその犯人「銀ナイフ」の凶行を止めるべく、事件を追う者が二人。
 一人は、闇内閣の密命を受けた諜報員・ボウルガード。いま一人は、外見は十六歳だが、実年齢は四百歳を越える、美貌の吸血鬼・ジュヌヴィエーヴ。
 そして、彼らの奔走の一方で、かつてヘルシング教授の仲間であった者たちも、己の目的をもって動き始めていた——

 というわけで、吸血鬼の跋扈する、暗黒の十九世紀ロンドンを舞台にした、アクションありサスペンスありロマンスありの一大エンタメホラーなのですが、世界観の「濃さ」が何よりウリの作品。

 作中で言及されるのは『吸血鬼ドラキュラ』の登場人物ばかりではなく、シャーロック・ホームズが政府に反抗した結果刑務所に入れられているわ、殺人事件の証言者として医学者・ジキル博士が登場するわ、ヴィクトリア朝フィクションのキャラクターたちを惜しみなく投入。
 そして、古今東西の吸血鬼フィクションに登場する、有名な、あるいは無名な吸血鬼たちがオールスター出演(『中国人ヴァンパイア』という触れ込みでキョンシーまで登場)。各キャラの元ネタ解説も含む、巻末の登場人物辞典は、実に五十ページにも及びます。

 登場キャラ数の膨大さから、始めは登場人物辞典を引きながら読み進めることになるかもしれませんが(先に『吸血鬼ドラキュラ』を読んでおくと、かなり分かりやすくなります)、気高く美しいジュヌヴィエーヴを始め、キャラクターの魅力でぐいぐい読まされます。

 作者の趣味を全開にした、おもちゃ箱をひっくり返したようなこの作品。年末年始などお時間のある時に、ぜひ読んでみて頂きたい一冊です。みなさま、よいお年を。

(※『ドラキュラ紀元』の書影は、東京創元社HPより引用しました。)

2015年12月19日土曜日

吸血鬼VS人類 (※ただし、人類は自分ひとり)

今晩は。19日(土)、20日(日)のジャンプフェスタ2016に向けて、絶賛準備中のミニキャッパー周平です。

まずはCMから。大ヒットダークファンタジー『終わりのセラフ』から生まれた新シリーズ。人類の敵である「吸血鬼」たちの過去に迫る、小説『終わりのセラフ 吸血鬼ミカエラの物語1』、発売即重版がかかるなど、大好評発売中です!(Amazonへのリンク)



今回は、その大ヒットにあやかって、「吸血鬼との絶望的な戦い」が描かれる作品、リチャード・マシスンの"I Am Legend"を取り上げます。『吸血鬼』『地球最後の男』『地球最後の男〈人類SOS〉』『アイ・アム・レジェンド』と四つの邦題があるこの作品は、映画化もされているので、映像としてご覧になった方も多いかと思います。






突如として、多くの人々が理性を失い、血を貪る吸血鬼と化した世界。
夜になれば、吸血鬼と化した群衆が獲物を求めて徘徊する。
そんな中、妻子を失った男は吸血鬼になることを免れ、たったひとり生き延び続けていた。
昼は、活動を休止している吸血鬼たちの心臓に杭を打って周り、夜は、バリケードを破ろうとする吸血鬼たちに神経をすり減らしながら、自宅に立てこもる。絶望的な日常をおくりながら、男は、吸血鬼たちの正体をつきとめようとするものの――

というわけで、吸血鬼によって文明が崩壊した世界での、男のサバイバルがメインになった作品。……今まで私がこのブログで紹介した作品の中では、案外「普通」のプロットだと思われるかもしれません。確かに、吸血鬼(今では、ゾンビの方が多いかもしれませんが)の影に怯えながら、一箇所に篭城し、必死で生き延びようとする物語は、現在となっては、シンプルでよくあるものに思えます。

ただそれは、1954年に発表された本作品が、あまりにも後世のホラーに影響を与えたためですし、それに、シチュエーションの類似した多くの作品が発表された今も、"I Am Legend"は「古臭くて読めない」作品にはなっていません。それは、この作品が、恐怖やスリルの物語であると同時に、悲しみの物語でもあるからです。

「人類VS人類の敵」という構図の作品は、基本的には集団VS集団の物語になるものですが、この主人公には、誰ひとり仲間はいません。もともと人間の生き残りが他にいないうえに、吸血鬼を殺戮し続けていくうちに、孤立をいっそう深めることになります。

悪夢的な世界にただひとり取り残されてしまった主人公の、人類最後の男としての圧倒的な「孤独」――ひりひりするようなその痛みは、発表から六十年以上の時を越えてなお、読者の胸を締め付けます。

亡くなった妻や子供の記憶。寂寥感にあふれる、人が消えた図書館の風景。生き残った犬を手懐けようとする場面。そして、タイトルの意味が読者に提示される、衝撃的なラスト。
どれもが印象的で、読後、長く余韻を残す、哀切な傑作です。
さて、吸血鬼ものの中でも、かなりウェットな作品を紹介してみましたが、それこそ『セラフ』のように華麗な吸血鬼が登場する、豪華絢爛なヴァンパイア譚といえば――というわけで、次回に続きます。


※『アイ・アム・レジェンド』 の書影はAmazonより引用しました。

2015年12月12日土曜日

毒のある少女の、二つの物語

 お久しぶりです。ミニキャッパー周平です。
 12月4日(金)をもって、無事に第1回ジャンプホラー小説大賞《銀賞》受賞作、『少女断罪』が発売になりました。
 とある「罪」を抱えた小学校教師の前に現れた、正体不明の転校生の少女・白石美星がもたらす災厄とは……多くの応募作の中から選ばれたこの作品、ぜひご一読下さい!!(Amazonへのリンク

 


 そして、第2回ジャンプホラー小説大賞の募集も開始されています。 

 WEBからでも応募できますのでふるってご応募ください。
 第1回に応募された作品には、ごく一般的な学校を舞台に、人間関係のトラブルから生まれる悲劇や危機、をメインとして扱ったものが多かったです。第2回は、学校以外を舞台にした作品や、常識はずれなアイデアが飛び出す作品も、たくさん読んでみたいですね。ホラー賞HP内には、ホラー作家の先生方のインタビューへのリンクもありますので、是非チェックしてみてください!!


 さて、『少女断罪』は危険な少女の物語なのですが、今回は、古典ホラーからも危険な女性をご紹介しましょう。かなり昔の作品なので、結構ネタバレしてしまいます。

 漫画やラノベなどで、「毒使い」のキャラクター、体の中に毒素を持ち、それを武器に戦う登場人物、というのを見ることがあります。 

 実は、体内に蓄積した毒を暗殺に使う人間、というものは、既に紀元前のインドやギリシャには伝承として存在していたようです。
 それをはじめて小説として描いたのは、恐らく、1844年に発表されたナサニエル・ホーソーン「ラパチーニの娘」(創元推理文庫『怪奇小説傑作集3』などに収録)。


 


 医学生の青年ジョバンニは、とある庭園に訪れる少女に恋をした。

 ベアトリーチェという名の少女は、高名なラパチーニ博士の娘だった。ベアトリーチェに恋焦がれるジョバンニだったが、彼はベアトリーチェの不思議な体質を目撃する。彼女が手に持った花は萎れ、彼女に近づいた虫は死ぬ――
 実は、ラパチーニ博士の実験台として、毒を与え続けて育てられたベアトリーチェは、その身に毒を宿しており、触れるもの近づくものを毒に侵してしまう、恐るべき存在になってしまったのだ。
 妖しく、美しく、そして哀しい宿命を描ききった、古典怪談のアンソロジーには高確率で収録される名作です。

 ……と、ここで紹介を終えてもいいのですが。
 ロシアの作家フョードル・ソログープに「毒の園」(1908年発表)という作品があります(岩波文庫『かくれんぼ・毒の園』収録)。実はこちらも、「若者が庭園に現れる美女に一目ぼれ、しかしその美女は植物学者の父親によって毒で育てられていた……」という、途中まで「ラパチーニの娘」とまるっきり同じプロットなのです。




 ソログープは、他にもホーソーンの短編を下敷きにした作品を書いたものの、盗作と評判を立てられた、という経緯があり、「毒の園」も「ラパチーニの娘」にインスパイアを受けた小説という扱いで、あまりメジャーな作品ではありません。

 しかし、私が敢えてソログープをここで紹介したいのは、「毒の園」の場合は、「キスをすると相手が死ぬ」という、非常に絵になる属性がヒロインに加えられているからです。

 そして、「ラパチーニの娘」と「毒の園」では、結末と、ヒロインの造形が違う。
 ものすごーく端的に申し上げますと、「ラパチーニの娘」は悲劇のヒロイン、「毒の園」はクーデレ、いえ、ヤンデレです。そのいい感じにタガが外れた、毒を持つ美女のキャラクターを是非、堪能してください。


 次回は、小説版『終わりのセラフ 吸血鬼ミカエラの物語』1(絶賛発売中です!→Amazonへのリンク)の担当者として、またも吸血鬼ネタをお送りします。



※『怪奇小説傑作集3』『かくれんぼ・毒の園』 の書影はAmazonより引用しました。