2015年3月10日火曜日

第9回 誰もが聞いたことのある「あの名作」が百合百合な件

(CM)ホラーとは全然まったくこれっぽっちも関係ないのですが、漫画編集時代に担当していたスポ魂百合作品『灼熱の卓球娘』のコミックス1・2巻が同時発売になりました。ぜひご一読を!
 http://www.s-manga.net/book/978-4-08-880204-6.html  (CM終わり)

                   

 と言うわけで、上司にはひた隠しにしてきたものの、百合作品に目がないミニキャッパーです。今回は百合ホラーの古典的な名作、「吸血鬼カーミラ」についてご紹介……いいえ。

 いつもとは趣向を変えて、オタク的観点からツッコミを入れていきたいと思います。

 
 漫画やアニメなどの吸血鬼キャラで「カーミラ」という名前は幾度となく引用されており、皆さんも漠然と「カーミラ」=吸血鬼、くらいのイメージをお持ちかも知れませんが、元々は1872年にシェリダン・レ・ファニュの発表した中篇Carmillaの登場人物。実は、「吸血鬼ドラキュラ」(1897年)より早いのです。

 そもそも、「吸血鬼ドラキュラ」はブラム・ストーカーが 
Carmillaに影響を受けて書いた作品なので、カーミラこそが、現代的な「高貴な」吸血鬼イメージの原点とも言えるでしょう。

 小説の内容はこう。オーストリアの古城で、父や使用人とともに暮らしていた少女・ローラ。ある日、城の前で馬車の事故が発生。ローラたちは、馬車に乗っていた少女カーミラを預かることになるが、それ以降、城の中では次々怪事件が。果たしてカーミラの正体は!? という訳ですが……
 正体はもう皆さんご存知の通りと言うか、和訳時に「吸血鬼カーミラ」という題にしたことで致命的なネタバレをしてしまっており、結末の驚きはすっかり失われています。

 では、この作品の現代的な「見どころ」は何かといえば。
 ずばり序盤、ローラに対してカーミラが親しげに近づいていく場面で、カーミラが見せる妖しい魅力です。たとえば、カーミラは賛美歌を聴くと(なぜか!)気分が悪くなってしまう訳ですが、その時に、ローラに対してかける言葉はこういうもの。

Sit down here, beside me; sit close; hold my hand; press it hard-hard-harder."

創元推理文庫の平井呈一による訳文は以下。

「ねえ、ここへお座りなさいよ。わたくしのそばへ。そして手を握ってちょうだい。ぎゅっと、――ぎゅっと――もっとぎゅっとよ」


 なんか、胸にグッときませんか。

 この訳文、50年近く前のものなんですよ。原文は150年近く前。
ほかにも、カーミラは「燃えるような目つきでじっと見つめて」「ほんのり顔を上気させ」「切ない息づかい」(すべて訳文通りの表現)でローラに話しかけたりするわけですが、その内容はと言えば、

「あなたはわたしのものよ。きっとわたしのものにしてよ。わたしとあなたは、いつまでも一つものよ」


いくらなんでもこんな台詞言ってるの? と思って、原文を調べてみると、こう。

"You are mine, you shall be mine, you and I are one for ever."

 完全に原文通りですね……。
 you and I are one for ever.って口説き文句として大胆すぎでしょう。

 今回挙げた台詞二つは、カーミラからローラに対するアプローチ・問題発言のごく一部に過ぎません。愛の告白にしか聞こえない意味深なセリフと、キスや抱擁、ボディータッチの連続でローラを篭絡しようとするカーミラ。そんなカーミラに不審を抱きながら、微妙に流されそうになるローラ。 
 16章ですが、だいたい5章辺りがクライマックスです。

 すごく下世話な感じで紹介して来ましたが、ゴシックな雰囲気とカーミラの美しさ・危うさがバシバシ伝わってくる名文&名訳はやはり、19世紀の作品とはいえ一読の価値があります。
 (著作権切れしてるので、ネットでは原文で読むこともできます)

 古典ホラーを学んでおきたい方、ゴシックなものに惹かれる方、そして百合作品はおさえておきたい方、必読ですよ!

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『吸血鬼カーミラ』の書影はAmazonより引用しました。