2015年2月21日土曜日

第8回 ゾンビと暮らす。


 春に『新撰組オブ・ザ・デッド』というゾンビ映画が公開されるとか。凄い組み合わせだと思いつつ、そういえば昔、『奥の細道・オブ・ザ・デッド』という本もあったような。つまり歴史用語にオブザデッドを付ければ斬新なゾンビ小説が作れるのでは? 邪馬台国オブザデッド。大奥オブザデッド。水戸黄門オブザデッド。クレオパトラオブザデッド。

 そして……ジャンプ小説新人賞'14Summerの「キャラクター部門」金賞受賞作『Rain of Filth』が『丸の内OF THE DEAD』(小説:ぞんちょ、イラスト:シヒラ竜也)と改題し、3月19日に発売決定。
 ゾンビの跳梁する死都東京で繰り広げられるアクションとドラマに、ぜひご期待を!!

 さて、ゾンビと戦うホラー作品が花盛りの昨今ですが、本日ご紹介したいのは、ゾンビものの中でもいっぷう変わった、ゾンビと一緒に生きようとする人々の物語2編です。



 雀野日名子「ぞんび団地」(『トンコ』収録)の主人公は、ゾンビと友達になった少女。

 小学2年生の少女あっちゃんは毎夜、家を抜け出して電車に乗り、警戒線を越え、とある団地へ忍び込む。毒ガスの発生によって、すべての住人が生ける屍――ゾンビとなってしまった団地へ。暴力を振るうパパのいる家と、いじめっ子に攻撃される学校、その双方で毎日苦しんでいるあっちゃんが、ただひとつ心安らげる場所が、「ぞんび団地」だった。あっちゃんにとって、暴力を振るわない、悪口も言わないゾンビたちだけが一番の友達なのだ。

 自分とパパとママを「ぞんび」にしてもらえば、家族仲良く暮らせるはずだ、と考えたあっちゃんは、団地の住人たちに「ぞんびになる方法」を教えてもらおうとするが……。

 童話調の語りですが、生きた人間たちのあっちゃんへの仕打ちは、非常に苛烈・残酷です。なので、グロテスクでもどこかユーモラスな「ぞんび」の姿に惹かれてしまうあっちゃんに、強く感情移入させられます。幼い少女の、「ぞんびになりたい」という儚い願いが手繰り寄せる結末は――胸を締め付けられるような、哀切にあふれた名品です。


 2本目は、世界幻想文学大賞受賞の傑作、ダン・シモンズ「最後のクラス写真」(『夜更けのエントロピー』収録)。

 「大苦難」と呼ばれる災害によって、人類の大半は死に絶え、ゾンビとして徘徊している世界。女性教師のギースは、かろうじて生き残った人間の一人。それまでの教師生活三十数年、様々な問題を抱えた子供たちを指導してきた彼女は、極限状況下においても自らの職務を捨てなかった。

 そう、ギース先生は、意思疎通ができなくなった子供たち……人肉を貪り食うゾンビらを相手に「授業」を始めたのである。

 ギース先生は、ゾンビ化した「生徒」たち数十人に足枷を嵌め、首輪を巻きつけて教室に監禁。肉でご機嫌取りをしながら、知性の片鱗さえ見せない彼らに、授業(らしきもの)を開始。
 さらにレミントン銃で完全武装し、大人のゾンビたちから「学校」という聖域を守り抜こうと、たった一人で奮戦する……。

 あらすじを書くとコメディになってしまいそうですが、シリアスに、異様な迫力で描き出される物語に、引き込まれること必至。壊れてしまった世界、妄執じみた信念に突き動かされる主人公、そして物言わぬゾンビたち、全てがなまなましく活写されます。「物語」の力を感じさせる、必読の一本。


 という訳で、ここから数回はモンスター系ホラーゾーンに突入します!


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『トンコ』『夜更けのエントロピー』の書影はAmazonより引用しました。