2015年1月23日金曜日

時間に閉じ込められる話

ネタバレになるのでタイトルは伏せますが、某ゲームとか、某アニメとか、繰り返す時間・時間ループ現象を大きな仕掛けにした作品が昨今、膨大な数、作られています。

時間ループ現象をメインに扱った最初期の作品に、リチャード・R・スミス「倦怠の檻」(1958年)というのがありますが、これは僅か10分間のループの中に閉じ込められ、精神を破壊されていく男の物語。
そう、「時間ループ」という現象は発明された当初から、ホラーと結びつくことが宿命付けられていたのです! つまりループ=ホラーと言っても過言ではない。
という訳で今回は、時間に囚われる怪談。「秋の牢獄」、「昨日公園」の2本立てです。



一本目は恒川光太郎「秋の牢獄」(同題短編集収録)。
女子大学生の藍は、突然、「11月7日」を繰り返すループ現象に囚われてしまった。何をしても24時には全てがリセットされ11月7日の0時に戻ってしまう時間反復。いつまでも続くループに心を折られそうになっていたある日、自分と同じく「11月7日」を繰り返す現象に陥っている「リプレイヤー」と呼ばれる人々と出会う。藍は彼らと、新しい人間関係を築いていくが……

多くのループものは、「どうやってループから脱出するか」に焦点が当てられます。しかし本作は、ループ現象の中で過ごすことを受け入れ、同じ境遇の者たちで「仲間」として集まり日常を作っている所を、更なる怪異が脅かす、というものです。
世界から切り離された「リプレイヤー」たちの孤独と心の共鳴、それを象徴するあまりに美しい「秋」の情景描写は、抑えた筆致の中でも、読者の心を鷲掴みにします。
何度も再読した作品ですが、ラストは読み返す度、鳥肌が立ちます。




二本目は朱川湊人「昨日公園」。この作品を含む短編集『都市伝説セピア』は、直木賞候補になっています。
「昨日公園」は『世にも奇妙な物語』でドラマ化もされ話題になったため、後の様々な作品の元ネタになったとも言われています。

小学校四年生の陽介は、ある日、先ほどまで公園で一緒に遊んでいた親友が、車に跳ねられて死んだという報せを聞く。友達の死を受け入れられないまま再び公園に訪れた陽介だが、ふと気づくと、事故の起こる前に戻っていた……

事故前の時点に戻るというループ現象に巻き込まれたことを利用し、交通事故で死んでしまうはずだった友人を助けようとする主人公の苦闘が描かれます。
しかし、「やり直し」をすればするほど事態は悪化し、友人の家族など、死ぬはずのなかった人までもが死んでしまいます。
絶望的な状況下で主人公はいかなる選択をするのか――その決断の痛切さと、物語の劇的な結末に、思わず目頭が熱くなります。
泣けます。
 
ループものホラーにはまだ傑作が沢山あります。次回は私が偏愛する一本を紹介します。


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『秋の牢獄』『都市伝説セピア』の書影はAmazonより引用しました。

2015年1月16日金曜日

過去を奪われる話

本を読んでいる途中で、実は以前読んだものだったことに気づいたり、間違えて同じ本を二冊買ってしまったことに後から気づいたり、というのを何度かやらかした今日このごろ。過去の記憶というのはあやふやで、信頼が置けないものです(年をとって、物覚えが悪くなったせいだとは思いたくありません)。

いう訳で、今宵のテーマは、「過去を奪われる」という、ホラーの中でもかなり精神的にエグい物語。いつもと趣向を変えて短編の三本立て、「おもひで女」「時空争奪」「闇が落ちる前に、もう一度」をご紹介します。


一編目は牧野修「おもひで女」(『忌まわしい匣』収録)平凡な会社員である主人公は、ある日突然、生まれて間もない頃の恐怖体験を「思い出す」。思い返すほどに背筋が寒くなるその出来事を、なぜ今の今まで忘れていたのか? しかもその数日後、四・五歳の頃のおぞましい記憶を新たに「思い出し」てしまう。つづいて、小学生の頃の悪夢を。平穏だったはずの過去、その「思い出」を恐怖に染めながら、徐々に「何か」が主人公の現在へと近づいてくる……。
間を超えて、「記憶を辿って」追いかけてくるという、とんでもない怪異を生み出した傑作。



思い出」や「過去」の侵食が、全世界規模で起きてしまうのが、小林泰三のホラー短編「時空争奪」(『天体の回転について』収録)。
蛙や兎を描いていたはずの「鳥獣戯画」が、世界中の誰もが気づかぬうちに、グロテスクな怪物たちを描いた地獄絵に変わってしまった。続いて「源氏物語絵巻」にも異変が。平安時代の文化財に生じた変化を発端に、人類の歴史が、異形の跋扈するドス黒いものにすり変わり、それが刻一刻と「現代」へと迫っていく。
実を変貌させる怒涛のロジックと、狂気に侵されていく世界の描写が見所の逸品です。



して、過去を収奪される物語として、ある意味、究極とも呼べる作品が、山本弘の奇想SFホラー「闇が落ちる前に、もう一度」(同題短編集収録)。
研究者である主人公が、恋人に向けて送ったメール。そこには、切羽詰った文面で、「世界の真実」が記されていた。哲学上のとある命題を検証する実験によって、明らかになったその事実は、主人公の理性を根本から揺さぶるもので……人公の絶叫ともいえる、あまりにも悲痛なラスト一行が、読者の心に反響し続けることでしょう。

時間ホラーシリーズは次回に続きます。今度は「時間に閉じ込められる話」。


「おもひで女」「時空争奪」「闇が落ちる前に、もう一度」の書影はAmazonより引用しました。


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2015年1月9日金曜日

学園ホラー編(3)『Another』

  
 ホラーにも「萌え」があっていいと思うんです。
 むしろキャラの魅力は、極限状況下でこそ輝くのです!

 ……失礼、少し取り乱しました。

 ホラー作品の一部には、圧倒的な存在感で、読者の心に強い印象を残すキャラクターがいます。自分はどうしても女性キャラにばかり目が行ってしまいますが、小説だとレ・ファニュの創り上げたカーミラとか、フョードル・ソログープの『毒の園』のヒロインとか、漫画だと『黄昏乙女×アムネジア』の庚夕子とかが、私にとってイイネ!ボタンを10回くらい押したいキャラです。そして、綾辻行人が生み出した本作のヒロインも、また。

 という訳で、学園ホラー編、第3回目は綾辻行人『Another』。
  漫画化やアニメ化もされた大ヒット作です。



 家庭の事情で、東京から、地方の夜見北中学校に転校してきた恒一。しかし、転入先のクラスメートたちは何かを隠しているようで……更に、恒一が眼帯姿のとある少女に近づいたことから、彼の運命は狂い始める。級友や教師たちの異様な行動と、相次ぐ死の待ち受ける、悪夢の学校生活へ向かって。

 優れたホラーでありながら、ミステリの名匠・綾辻行人の手腕が存分に発揮された作品でもあります。
 前半では、「何が起きているのか」を理解できず恐怖に翻弄される主人公の姿が描かれます。しかし、主人公が超自然的な現象を「ルール」として受け入れた後半からは、サスペンスホラーでありながら、元凶を突きとめ、事態を止めようとするミステリ的な側面が現れます。終盤に訪れる驚愕も、ミステリの手練ならではの仕掛けです。

 そして先述の通り、ヒロインである「見崎鳴」の存在感。
 初見の浮世離れした妖しさや儚さは勿論のこと。主人公の目を通じて描かれる彼女の姿は、謎のベールに包まれた前半から、正体の何割かが明らかになる中盤、真意が明かされる後半と、刻々とその印象を変えていき、読者はそれを追体験していくことになります。計算された「見せ方」で提示されるそのキャラ造形に、惹きつけられずにはいられません。これは萌えだと思います!

 なお、ジャンプホラー小説大賞でも、私がキャラにオリジナリティと魅力を感じた作品は、問答無用で一次審査を通過させます。


 さて、『学園ホラー編』はここでいったん休憩。次回からのキーワードは「時間」です。

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2015年1月6日火曜日

学園ホラー編(2)『ラガド 煉獄の教室』

 物語を愛する皆様、こんばんは。JBOOKS編集部員のミニキャッパー周平です。

 普通の小説は、その物語にのめり込んでいる読者や、その作品を読み終えた読者の心を動かすものです。
 けれど、世の中には、書店でパラパラめくっているだけで「?!」と驚かされ、慌ててレジまで運ばされてしまう、そういう「普通ではない」特徴を持った本もあるのです。

 たとえば、文庫で400ページくらいの物語の中に(絵ではなく)「図」が100枚近く収められている、とか。

 という訳で、今宵ご紹介するのは「学園ホラー」というよりも「教室ホラー」とでも呼ぶべき異色作、両角長彦『ラガド 煉獄の教室』です。



 高校の教室に刃物を持った男が侵入し、一人の女子生徒が刺殺された。犯人逮捕ののち、警察やマスコミによって、犯行当時の状況を再現する実験が行われる。
 ところが、犯人の供述も、生き延びた生徒たちの証言も、なぜか曖昧だったり互いに矛盾していたり、信頼が置けない。
 手がかりや新証言のたびに、『再現』される状況は二転三転する。真相究明は混迷を極め、警察やマスコミが右往左往させられる中、過去に起こった悲劇や、教室内の闇が暴き出されていく……。

 先に述べた「図」とは、凶行が行われた際の教室での生徒・犯人の動きを示した見取り図。様々な推理・推測によって目まぐるしく変わっていく、「犯行当時の教室内で何が起こっていたか」の仮説を読者に提示する役割を果たしています。

 この膨大な図に加えて、生徒たち、教師、保護者、警察、マスコミなど次々に焦点を変えていくプロット、時折挟まれるインタビューや尋問形式での語りも相まって、迷宮に誘われるような読書体験を味わえるはずです。

 そういった特殊形式を積み上げて、辿り着くその「瞬間」――物語の終盤近くで示される、凶行時の教室の異様な「光景」には、戦慄を禁じえません。実はミステリの新人賞を受賞した作品なのですが、超常的な部分もあり、審査員も「SFやホラーの志向性を」見抜き、更に(前回ご紹介した)『六番目の小夜子』の体育館シーンにも似た戦慄を感じ取ったとのこと。私自身も、この作品は恐るべき「決定的な一瞬」めがけて構成された、異色のホラーとして取り上げさせてもらいました。


 さて、実は先ほど述べた、この作品を評価された審査員というのはミステリ作家の綾辻行人先生なのです。という訳で次回ご紹介するのは、綾辻行人先生の学園ホラー……と言えば?




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(CM)ジャンプ小説新人賞よりデビュー!!13歳の天才心理学者と、犬系男子のオカルト譚『鬼塚伊予の臨床心霊学』




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魔女の呪いを巡る学園ホラーサスペンス『放課後の魔女』
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『ラガド 煉獄の教室』書影はAmazonより引用しました。販売ページのリンクは以下
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