2017年6月24日土曜日

人間の暗黒面に心奪われる二人は、今日も猟奇犯罪者に遭遇する……乙一『GOTH』

今晩は、ミニキャッパー周平です。第3回ジャンプホラー小説大賞の〆切まであと1週間です。志望者の方はラストスパート頑張ってください! そして第2回ジャンプホラー小説大賞受賞作のたとえあなたが骨になっても』『舌の上の君』、書籍&電子書籍版で大好評発売中ですのでお見逃しなく!

さて、担当編集者として『たとえあなたが骨になっても』のネット上での反響に目を通している私ですが(お褒めの感想を上げて頂いた方、ありがとうございます!)、複数の箇所で「初期の乙一作品のテイストを彷彿とさせる」とのコメントを頂きました。実は私が賞に応募された原稿(その時は『先輩が骨になった』という題名でした)を初めて読んだ時も、それに近い魅力を感じたのです。

――という訳で、本日ご紹介するのは、ホラーテイストを含むミステリであり、サイコサスペンスとしての側面ももつ大ヒット作、乙一『GOTH』です。



高校生の「僕」とクラスメートの少女・森野は、死や殺人といった人間の暗黒面に惹かれる者同士として密かな関係を結んでいる。ある日、森野が喫茶店で拾った手帳は、巷を賑わす猟奇殺人犯が己の凶行を記録したものだった。二人はただ死体を見たいという動機から、手帳に書かれた犯行現場に向かうが、それがきっかけで「僕」は犯人の正体を突き止めねばならなくなる――

と、これが第一話のあらすじで、二話目以降も、主人公の「僕」は正義感やまっとうな倫理観ではなく、状況のために(多くは、殺人や死、人間の暗黒面に出会おうとしたことが原因で)図らずも探偵役を務めて、犯人たちと対決していくことになります。各話に登場する、少女連続殺人鬼、生き埋め犯、手首切断魔など、人の道を踏み外した「犯人」たちのキャラ性、ロジカルであったりフェチ的であったり憑かれたかのようであったり、その怪物的な精神性には肝を冷やしますし、同時につい引き込まれてしまいます。しかしそれ以上に、主人公二人、孤高な森野と、一般人に擬態するように生活している「僕」のダークな関係に、ホラー的な魅力を感じてしまいます。

森野は、単に「猟奇的な出来事に関心を持っている」だけでなく、姉妹の死という過去が心に刺さった棘となっており、猟奇殺人犯に標的にされやすいという特殊体質も備えているため、存在そのものが死に引きずられているような危うさがあります。そして主人公の「僕」は、物語の中で一番の怪物。猟奇殺人犯相手でも物怖じすることなく渡り合い、彼らを警察に通報する訳でも、裁く訳でもなく、自らの「興味」を軸に行動していく。いわば、探偵よりも犯人に近い心性の持ち主なのです。今にも「死」の向こうに消えてしまいそうな森野。

今にも「殺人」の一線を踏み越えそうな「僕」。二人に境界線のこちら側に留まり続けてほしい、いびつな絆が決定的な破局を迎えずに済んで欲しい――そんな願望めいた思いとともに、6編の短編を一晩で読んでしまった十年以上前の記憶が、今回このレビューを書くために再読して、くっきりと甦りました。


キャラクターのことばかり述べてきましたが、ミステリとしてのクオリティも抜群です。各話に一度は読者の予想を裏切るどんでん返しがあり、更に最終話では、これまで周到に準備をした上での鮮やかな逆転が行われ、連作短編のお手本のような手際を見せてくれます。騙される快楽」を味わえる一冊としても、お勧めの作品です。

2017年6月17日土曜日

ついに発売! 第2回ジャンプホラー小説大賞受賞作『たとえあなたが骨になっても』『舌の上の君』

今晩は。ミニキャッパー周平です。……ついに! この欄でも毎回執拗に告知し続けたジャンプホラー小説大賞の2冊が間もなく刊行となります。公式発売日は6/19ですが、大きめの書店では土日のうちに並ぶのではないかと思いますので、ぜひチェックしてみてください。

というわけで今回は、第2回ジャンプホラー小説大賞の受賞作2冊――『たとえあなたが骨になっても』『舌の上の君』これらをご紹介する、ダイレクトマーケティング回となっております。


まずは、銀賞受賞作の菱川さかく『たとえあなたが骨になっても』。
高校生・朝戸雄一の敬愛する先輩・後光院凛々花は、周囲の全てを虜にする美貌と、警察から助力を請われるほどの推理力を備えた「名探偵」だった。雄一は、彼女の助手として奔走する日々を送っていたが、ある日、凛々花が何者かに殺害されてしまう。
しかし、殺されてからも凛々花の持つ推理力は変わらなかった。雄一は骨だけになった彼女とともに、町を襲う事件の犯人を追跡するが……?

オーソドックスな「学生探偵もの」――おかしな部活に探偵役と助手と情報収集担当が集い、学校の謎や警察の追う事件を解決する――という正統派キャラミステリ的な関係が崩壊してしまい、「終わってしまった」後から始まる物語。死してもなお謎への執着を失わない先輩と、先輩の頭蓋骨を大事に抱えて事件現場に向かう雄一。常軌を逸した関係となった二人がたどり着く真実は、呪わしく痛ましいものだった……異形にして闇色の、青春ホラーミステリです。

美しき凛々花先輩が神々しいまでの存在感を放つ、清原紘先生のカバーイラストが目印です!

続いては、編集長特別賞受賞作、ヰ坂暁『舌の上の君』。

異世界に迷いこんでしまった料理人・厨圭(クリヤ ケイ)は現地人の少女・アイサに救われる。クリヤは異世界の宮廷で料理人として身を立てることに成功するが、やがてアイサについて恐るべき真相を知ることになる。
彼女は「サカラ」という究極の美味を宿した人間であり、いずれその身を調理され、食される運命にあったのだ。アイサは他でもないクリヤに調理されることを望むが……。

昨今話題の「異世界」ものですが、クリヤは羨ましいシチュエーションを享受するどころか、倫理観の異なる世界で、壮絶な選択を迫られることとなります。献身的で愛らしいアイサを守りたい・救いたいという、現代日本人として自然な気持ちを抱えながら、彼女を調理し「食べる」ことが当然という価値観に少しずつ心を揺さぶられていくクリヤの姿から、目が離せなくなるでしょう。禁忌を踏み越えるダークなホラーであると同時に、少女との胸を引き裂くような悲恋をも描き切る衝撃作です。

異国情緒たっぷりの世界とキャラをビビッドに描く、しおん先生のイラストも多数収録しています!

というわけで、第2回ジャンプホラー小説大賞受賞作の2冊を、宜しくお願いいたします! 第3回の〆切ももうすぐ(6/30)なのでお忘れなく!




2017年6月10日土曜日

四世紀に渡って「魔女」に呪われた町の地獄――世界的ヒット作、トマス・オルディ・フーヴェルト『魔女の棲む町』

今晩は、ミニキャッパー周平です。第2回ジャンプホラー小説大賞受賞作『たとえあなたが骨になっても』『舌の上の君』発売(6/19)まであと9日。第3回の締め切り(6/30)まであと20日。どちらもお見逃しなく!!

6/19発売の2冊は現時点で反響も大きく、改めてホラーというジャンルの強さを感じる今日この頃ですが、「リング」や「呪怨」の海外でのヒットに代表されるように、「怖い話」の力は国境を超え、世界規模にまで広がっていきます。

今回ご紹介する本も、そんなパワーをもった一冊。2013年にオランダでベストセラーになったのち、米英にも翻訳され、スティーブン・キングも絶賛。現在14か国で翻訳権が取得されていて、ワーナーブラザーズがTVドラマ化権を獲得したという、いま世界的にホットなホラー小説。トマス・オルディ・フーヴェルト『魔女の棲む町』です。



ブラックスプリングの町は、4世紀に渡って、たった一人の女に呪われ続けている――。17世紀にこの地で「魔女」として処刑されたキャサリンは、死後も肉体を持った幽霊としてブラックスプリングの町に留まり続けた。彼女は町の中であれば屋内屋外を問わず出現し、時には民家の居間や寝室にまで前触れなく現れ、不用意に近づく者に速やかで残酷な死の呪いを与える。

彼女に怯えながら生活する人々も、町を捨てて逃げ去ることはできない。一度ブラックスプリングに住み始めた者は、そこから逃げ出せばやはり死の呪いが降りかかるため、永遠に町の住人であることを余儀なくされる。にもかかわらず住人たちは、更なる致命的な災いを恐れて、町ぐるみで「魔女」の存在を隠蔽し続けてきた。アプリを用いた現代的な監視網でキャサリンの出現場所を共有し、迅速によそものたちの目から隠蔽する組織も結成されている。

町の住人のひとりスティーヴは、愛する家族とともに、魔女の出現に目をつむりながら歪んだ平穏を生きていた。彼は、自身の息子・タイラーが友人たちと組んで、町の秘密を世界に公開しようと計画していることに気づいていなかった……。

500ページ超に渡る長編ですが、あたかも海外の連続ドラマをぶっ通しで視聴するかのように読みふけってしまいました。もう情けも容赦なく、悲劇的で、悪夢的で、何より「怖い」作品です。魔女認定と拷問の果て、自分の子供のうち一人を生きながらえさせるために、もう一人の我が子を殺させられた、というキャサリンの悲劇が早い段階で提示されるので、「これはきっと心理的にかなりきついホラーになるだろうな」と覚悟を決めて読みましたが、覚悟していた以上の壮絶な展開が待っていました。

まず前提として、村全体が「魔女の呪い」という秘密を共有していて、住人全てが共犯者という異常な緊張感が物語を包んでいるのですが、それ以外にも、登場人物の大半が大なり小なり「他人に知られてはならない危険な秘密」を背負ってしまい、緊張の糸が四方八方に張り巡らされていきます。そんな精神的飽和状態の中で、人々の不安と猜疑心が募っていき、やがてダムが決壊するかのように、想定された「最悪のシナリオ」を超える悪夢が現実に顕現するのです。一度臨界点を超えて暴発してからの惨劇の連鎖、スティーヴたち一家や町全体を襲う事態は、映像的にも精神的にも筆舌に尽くしがたいものです。

350年に渡る「呪い」との戦いで町が積み上げてきた知恵と、Youtubeやiphoneや監視用のアプリなど現代的なテクノロジーの加護によって、辛うじて魔女の脅威を把握し得ていたブラックスプリング。その(偽の)平穏にページ数を費やしているからこそ、物語の後半が読者に与えるダメージは大きいでしょう。町が、相次ぐ凶兆と不信によって全ての防御を解除され、魔女狩り時代のような、あるいはそれ以上の狂騒に呑み込まれていく様は、慣れ親しんだ町が大規模災害に襲われる様を見せつけられるような惨たらしさ、悲しさがあります。

よく、ホラー小説にまつわる議論として、「超常的な力」の方が怖いのか、「人間の心の闇」の方が怖いのかという議論がありますが、この小説では、どちらも揃って怖いです。目と口を縫い合わされた「魔女」の振るうこの世ならぬ力、それに怯えるあまり理性を手放す人々の行為、いずれもが恐怖と悲劇の源泉となり、アクセルとアクセルでブレーキのない車のようなノンストップホラー。これを一気読みしてしまった今日、物凄い悪夢を見てしまいそうで心配です。

2017年6月3日土曜日

『吸血鬼ドラキュラ』の作者が創造した、エジプトの女王の呪いとは……『七つ星の宝石』


 こんばんは、ミニキャッパー周平です。第2回ジャンプホラー小説大賞受賞作『たとえあなたが骨になっても』『舌の上の君』、ともに無事校了されました! あとは見本の到着と6/19発売を待つばかりです。第3回の〆切(6/30)もお忘れなく。

さて、ここしばらく、日本人作家の近作ばかりを紹介してきましたが、久しぶりに、海外の古典に目を向けたいと思います。今回取り上げますのは、世界で一番有名なホラー小説といっても過言ではない、『吸血鬼ドラキュラ』……ではなく、『吸血鬼ドラキュラ』の作者、ブラム・ストーカーによる、エジプトものホラー『七つ星の宝石』です。


「『吸血鬼ドラキュラ』は知ってるけど、そんな小説、聞いたことがない……」と思われるものも無理はありません。本作は1903に出版された作品でありながら、日本に訳されたのは2015。『吸血鬼ドラキュラ』が大昔から多数の出版社によって翻訳されているのとは対照的に、『七つ星の宝石』は100年以上に渡って、「日本語では読めない本」だったのです。それでも、本国イギリスでは、『吸血鬼ドラキュラ』同様、読み継がれてきた作品だとか。

弁護士の青年・マルコムは、舞踏会で知り合って親密になった女性・マーガレットから真夜中に呼び出しを受ける。マーガレットの父親・トレローニー氏が何者かに襲撃を受け、昏睡状態に陥ったというのだ。警察も到着し捜査を開始するが、犯人の素性も目的もわからない。ただ、古代エジプトに関心があったトレローニー氏は、部屋中をエジプトの遺物、宝物やミイラで満たしており、部屋には不気味な空気が漂っていた。
トレローニー氏の書き置きに従って、部屋で寝ずの番をするマルコムたちだったが、その監視をかいくぐって第二の事件が起こる。やがて彼らは、トレローニー氏が収集していた品々が、四千年前に、古代エジプトにおいて「復活」の奇跡を行ったという聡明にして美貌の女王・テラのものであったことを知る……。

『吸血鬼ドラキュラ』で、吸血鬼伝承から「ドラキュラ伯爵」を生み出した作者ブラム・ストーカーは今回、エジプトの伝承から「テラ女王」というキャラクターを生み出しました。もちろん実在の人物ではありませんし、ドラキュラ伯爵と違って作品の中盤で大立ち回りをすることもないのですが、ヒエログリフに僅かに記された彼女の人生は想像を掻き立てますし、主人公たちを翻弄する四千年がかりの「遺志」に気の遠くなるような執念を感じます。

登場人物が、ヒエログリフを仔細に解説したり、古代の天文学や信仰について熱狂的に語るシーンは非常にマニアックで、調べた内容を語るのが楽しくなってしまっている作者の顔が透けて見えるような気も(若干)します。手記の形で語られる王墓の発掘と、発掘者を次々に襲った「呪い」の姿は、秘境冒険小説と怪奇小説の混交した、この時代の小説でしか味わえない楽しさがあります。

「あれ? 『エジプトで王墓を掘り返したら発掘隊の関係者が次々と急死した』っていう与太話、ノンフィクションで聞いたことがあるような……」と思った方もおいでかもしれませんが、オカルト界隈で語られる「ツタンカーメンの呪い」(発掘に携わった関係者たちが急死したといわれる噂)の舞台は1920年代。つまり1903年発表の『七つ星の宝石』の方が先んじているのです。あるいは、「ツタンカーメンの呪い」が一時期、人々に信じられたのも、彼らの頭に『七つ星の宝石』とテラ女王のことがあったからかもしれません。

なお、『七つ星の宝石』は、1912年に改訂版が出されたとき、最終章が書き直されていて、本書には、初版の結末と1912年版の結末、両方が収められています。同じ人間が書いたとは思えない(実際、1912年版は本当にブラム・ストーカーが改稿したものか疑わしいとか)、何から何まで180度違うラストなので、読み比べてお好きな方をお選びください。

2017年5月27日土曜日

あなたの大切な人が生き返る——どろどろぐちゃぐちゃの生物として。堀井拓馬『なまづま』

こんばんは、ミニキャッパー周平です。いよいよ『たとえあなたが骨になっても』『舌の上の君』の書影が公開されました! 清原紘先生、しおん先生の手による美麗なカバーイラストをぜひお確かめください。

第2回ジャンプホラー小説大賞受賞作のこの2冊は、6/19発売。6/30〆切の第3回ジャンプホラー小説大賞への応募も宜しくお願いします!

さて、ホラー小説紹介ブログとして、これまで様々、「気持ち悪い」生命体をご紹介してきたましたが、今回ご紹介する一冊、堀井拓馬『なまづま』に登場する生命体「ヌメリヒトモドキ」は、もう名前の時点で粘度が伝わってくる、ぶっちぎりで気色悪い生き物です。



本作において、突然発生して世界に蔓延している人間サイズの「ヌメリヒトモドキ」ですが、
●嘔吐感を催す、強い腐敗臭を放つ。
●粘膜に覆われており、粘液を跳ね散らかして這い進む。
●ゴミを貪る習性があり不潔である。
●絶対に死なないうえ、排除も困難。
という四拍子そろったキモさで、こいつらが町中を我が物顔でぬめぬめ這いずってる時点でぞっとします。

ただ、「人間の髪や爪を食べると、徐々にその人間に心と姿を近づけていく」という体質も持っていたため、これを利用しようとする人間も現れました。倒錯した欲求を満たすため、ヌメリヒトモドキを自分そっくりに育ててそれを虐待したり。死者の姿を追い求めて、ヌメリヒトモドキを死者に似せて育てようとしたり。

そう、この生物の研究者であった主人公も、病死した妻の遺した髪を餌として、ヌメリヒトモドキを成長させ、「妻」を再現しようとするのですが——もちろん、死んだ人間を蘇らせようとしたら大変なことになるのはイザナギイザナミの時代からの世の常。

ヌメリヒトモドキの「妻」と触れ合うことは、すなわち、どろどろぐちゃぐちゃの怪生物と触れ合うこと。髪を撫でた指の隙間からは粘液がこぼれ、口づけをすれば腐臭に嘔吐してしまい、接触のあと必死になって自分の体を洗ってもヌメリ臭は取れず、といった具合に細部の描写は激烈です。そんな状況でも取りつかれたようにヌメリヒトモドキを飼育して「妻」を取り戻そうとする主人公の姿にまずは恐怖を覚えますが、やがてそれは悲しみに取って代わります。

主人公はまっしぐらに破滅へ向かっていきますが、彼の思いもよらぬ「心変わり」によって、物語は読者が予想した以上に悲劇的な結末へと向かうのです。飼育によって形を変え、心を変えていくヌメリヒトモドキは、ある意味では、人間の欲望や身勝手さを映し出す鏡でもあります。互いの欠損を埋めあおうとする人間同士のディスコミュニケーション、相互の致命的な不理解が物語の底に流れていて、登場人物のほぼ全員が、それぞれの孤独に苛まれていたのだと、読み手は痛感させられるでしょう。読後に到来する感情は切々たるものです。どろどろぐちゃぐちゃの塊をかき分けて恐る恐る進んでいくと、思いもよらない、深い哀切に飲み込まれる——この物語そのものが、そんな一匹の怪物めいた存在なのです。


2017年5月20日土曜日

虐げられたこどもたちを「楽園」へ誘う、黒マントの怪人の本性とは……牧野修『こどもつかい』

今晩は、ミニキャッパー周平です。6/19発売、第2回ジャンプホラー小説大賞受賞の2作品が、comicoにて独占先行配信されることとなりました! 『たとえあなたが骨になっても』は5/20より、『舌の上の君』は5/21より。どちらも序盤は無料で読めますので、ぜひご一読を。第3回ジャンプホラー小説大賞の〆切(6月末)も迫っておりますのでこちらもお忘れなく。

さて、日本を代表するホラー映画『呪怨』でお馴染みの清水崇監督による、待望の新作ホラー映画、『こどもつかい』が6/17(土)に公開されます。そこで今回は、公開に先立って発売された、牧野修による本作の小説版をご紹介しましょう。



虐待されたこどもがいずこかへ姿を消し、少し経つと家へ帰ってくるのだが、どこで覚えたのか分からない不気味な歌を歌うようになっている。その三日後、こどもを虐待していた大人が不審死を遂げる――連続して起こる怪事件の影には、こどもたちに甘言を囁き虜にする、黒マントの男の姿があった。新聞記者の江崎駿也は調査に乗り出すが、彼の恋人である保育士・原田尚美にも、魔の手が迫っていた。駿也は三日間の猶予の中で、怪異の正体を探り出し、尚美を守り切ることができるのか? やがて、彼らの必死の追跡劇により、六〇年前にサーカスの一座を襲った惨劇が炙り出されていく……。

帯に、「この世で一番怖いのは、こどもの怨み――」とうたわれている通り、ターゲットになるのは、虐待などでこどもの怨みを買った大人。「こどもつかい」が霊を差し向け、身勝手な大人たちを抹殺していくわけですが、「こどもつかい」自身、決してダークヒーローや善なる存在ではないことも徐々に暴かれていきます。それは、大人に傷つけられたこどもの心の隙をついて食い物にし、更なる悲劇を生み出す魔物。その「モンスター誕生」に至るストーリーに惹きつけられます。旧共産圏の貧しい家に生まれた少年が、虐待を受けたすえ娼館に売り飛ばされたのち、いかに魔に魅入られ、いかに技術を磨き、いかに殺戮を引き起こしていったか。猟奇犯罪者の実録ものを読んでいるような手触りに戦慄を覚えます。

対する主人公、駿也と尚美は、それぞれが幼少期に「こどもを虐げる大人」と関わりを持ち、後悔とトラウマを抱えています。「こどもつかい」の操るこどもの霊たちがいっせいに襲ってくるシーンはもちろん恐怖に満ちていますが、機嫌のよかった母親が些細なきっかけで豹変し、我が子へ理不尽な暴力を振るう、といった「大人」の身近な忌まわしさを描く場面も強烈です。本作品はホラーであると同時に、「傷ついたこどもたち」と向き合い、悲劇と暴力の連鎖を断ち切ることができるのか、というテーマに接近するドラマでもあります。

黒マント黒帽子黒ブーツ、という、文章の時点で鮮烈なビジュアルイメージが伝わってくる「こどもつかい」の姿を劇場で見れる日が待ち遠しいです。一方で、(この「小説版」のどこまでが映画通りで、どこからが著者のオリジナルなのかはまだ分からないのですが)物語の終盤で垣間見える一種の地獄の光景には、「きっとこれは映画で実現することは不可能であろう」と感じる劇的な演出もあり、小説でしか味わえない部分も多いのではと思います。というわけで、6/17の映画公開に向け、こちらで予習をしておくのはいかがでしょうか。

作者の牧野修先生には、以前、ホラー小説の書き方についてインタビューを行っております。こちらもぜひご覧ください!

2017年5月13日土曜日

窓の向こうは見知らぬ土地、私を崇める人たち……深い夜の幻想譚『やみ窓』

今晩は、ミニキャッパー周平です。GW中はひたすら書店を巡ってホラーを漁りましたので、しばらくはこのブログも安泰です。おかげでまた夢見が悪くなりましたが、早起きできて結果オーライです。ほんまかいな。

第2回ジャンプホラー小説大賞受賞作の2冊『たとえあなたが骨になっても』『舌の上の君』(ともに6/19発売予定)ですが、書影の公開やその他の素敵なニュースも近日中に。第3回ジャンプホラー小説大賞の〆切まではあと一か月半。今からでも遅くはないので、皆さまぜひ渾身のホラーをご執筆&ご応募ください。

さて、「窓の向こう」「扉の向こう」が「ここではないどこか」に繋がっている、という秘密めいた怪奇はホラーや幻想小説の花形ですが(H.G.ウェルズ「塀についた扉」は、幻想短編のマイベスト。超お勧め)、今宵ご紹介するのもそんな一冊。篠たまき『やみ窓』です。



夫を不慮の事故で喪い、一人暮らしをしていたフリーター・黒崎柚子は、自身の住むアパートの窓が、夜、いずことも知れぬ時代・土地の村と繋がることを知る。やがて柚子は窓の向こうに訪れる村人たちと「取引」を始めた。村人たちから地産の品を受け取る代わりに、柚子は、村人たちが貴重な壺と見なすもの(正体はただのペットボトル)を与える。村人たちから捧げられた、熊の肝や黒い米、精巧な織物などの珍しい品々は、インターネットで高く売れるのだ。柚子は、昼には派遣仕事に通う一方で、夜は一晩中、窓の前で訪問者を待ち続けて生計を立てることになった。しかし、窓に訪れるのは、必ずしも安全な取引相手ばかりでなく、柚子は時に命の危機にさえ晒される……。

この物語の面白さは、何の能力も持たない普通の人間であるはずの主人公が、窓の向こう側の村人にとって常識を超えた「怪異」になってしまう、という点です。小金を稼ぐために取引をしていただけだったはずの柚子は、いつの間にか村人たちから信仰の対象とされ、豊作や病気の治癒など叶えられる筈もない「神頼み」をされたり、供物を捧げられたり、望まぬうちに村人たちの人生を翻弄してしまったり、と「恐るべき神」そのものになってしまうのです。

窓のこちら側では、自身の薄暗い過去に追われる、傷ついた一人の人間。窓の向こう側から見れば、時に恵みを、時に災厄をもたらす、人智を超えた獰猛な神。そんな騙し絵染みた構図が鮮やかですし、どんなに窓越しのやりとりを繰り返しても、窓の向こう側で起きた出来事には関われず、その行く末は想像することしかできない、という状況が、深い余韻を残すラストに結びついています。

夜、一人きりで部屋の中にいると、ふと窓の向こうが異界に繋がっていないか、カーテンを開いて確かめてみたくなる――そんな、「あちら」と「こちら」の距離を縮める一冊です。